【新実キャスター】
「東大阪市役所のすぐお隣にですね、この立派な図書館があるんですよ。大阪府立中央図書館でございます。図書館で全盲の方が働いていらっしゃって、どんなお仕事をされているのか、大変気になります。取材したいと思います」
【新実キャスター】
「おはようございます。関西テレビの新実です」
【杉田正幸さん】
「大阪府立中央図書館の杉田です、はじめまして」
【新実キャスター】
「よろしくお願い致します。杉田さん、全盲でいらっしゃる?」
【杉田正幸さん】
「そうです。光ぐらいはわかるんですけども、今の新実さんの顔とかは全然見えません」
【新実キャスター】
「私の声って、ちなみに聞いたことあります?」
【杉田正幸さん】
「テレビの夕方のニュースでいつも見させて頂いてます」
【新実キャスター】
「ありがとうございます。生の声ってどうですか?ちょっと違います?」
【杉田正幸さん】
「そうですね、あの…テレビの方がすごく…いい声かもしれないですね(笑)」
【新実キャスター】
「致命的じゃないですか」
こちらがこの図書館で勤務する杉田正幸さん(48)。
大阪府で初めての全盲の図書館職員として採用され、20年間勤めています。
【新実キャスター】
「杉田さんの図書館でのお仕事は分類としては?」
【杉田正幸さん】
「図書館司書という形になります」
【新実キャスター】
「司書さんでいらっしゃるんですか」
司書とは利用者が読みたい本を全国の図書館から手配することはもちろん、
『こんな内容の本だったけど思い出せない…』といった相談から本を探し出し、
利用者に届けるというまさに“本探しのプロ”。
なかでも、杉田さんが専門とするのは…
【杉田正幸さん】
「私は障害者支援室というところで働いていますので、視覚障害とかそのままの形で本が読めない人たちに対して、サービスをする担当をしています。例えば録音図書とか点字図書とかもありますので、そういった本を利用者に紹介したりとか」
【杉田正幸さん】
「(案内しながら…)いま4番の部屋の前を通過しました…」
この日、杉田さんを訪ねて図書館に来た坂東興治さん、79歳。
5年ほど前に全盲になりました。
高齢になってから失明した坂東さんのような中途失明の人たちは、
点字で本を読めるようになることは難しく、
パソコンなどを使って本を読み上げる「録音図書」というサービスを利用して、
読書を楽しんでいます。
(※週刊誌を読み上げるパソコンの音声)
このサービス、なんと週刊誌にも対応しています。
【坂東興治さん】
「触ったことないパソコン、それから録音機とか、色々なもの教えていただき、5年間で300冊くらい読みました」
坂東さんは週に3日、杉田さんに扱い方を教わっています。
【新実キャスター】
「杉田さんとの出会いというのは坂東さんにとっていかがですか?」
【坂東興治さん】
「もういい人に会ってね~。本当に感謝してるんですよ。目が悪くなったおかげで本と接することになって本当にたくさん読みました。こんな世界があるとは私も夢にも思いませんでした」
【杉田正幸さん】
「視覚障害者は年とってもパソコンを使える使えないで情報の幅が広がるっていうのは坂東さんがすごいいい例だと思う」
さて、本を読むのにも杉田さんが本を探すのにも欠かせないパソコン。
まったく目が見えない杉田さんですが、一体どうやって操作しているのでしょうか?
【杉田正幸さん】
「パソコンの画面を音声で読み上げてくれるソフトというのを使っています。例えば…ローマ字で私も入力します。『しかく』と打ちました。これでスペースキーを押しますと…」
【♪ソフト】
「視覚の視 覚悟の覚」
【杉田正幸さん】
「視覚の視、覚悟の覚、っていう風に漢字で説明してくれます」
画面を読み上げる音を頼りに、パソコンを自由自在に操る杉田さん。
それにしても驚くべき速さです!
【杉田正幸さん】
「(音声は)このぐらいのスピードで実際に操作できないと、利用者との対話がゆっくりになるし、情報を得られる量が減るので、健常者と同じくらいの速度で仕事をしようと思ったら普段はこのスピード、もしくはもう少し速いスピードを使って仕事はしています」
【新実キャスター】
「今の読み上げで関西テレビの関西の変換とかってちゃんと『関西』になったなってのがわかるんですか?」
【♪ソフト】
「関係の関、西洋の西」
【杉田正幸さん】
「そうですね、関係の関、西洋の西。聞こえるじゃないですか!」
【新実キャスター】
「僕より多分打つの早い…」
と、いうことで私もちょっとだけ体験させていただきました。
アイマスクをして、司馬遼太郎の本を探そうとしたんですが…
【杉田正幸さん】
「sなので、左手の薬指で…」
【新実キャスター】
「多分これじゃないかな…よし!『s』当たった!」
【杉田正幸さん】
「当たりましたね。次は『i』なので中指を1個上に上げますね…」
【♪ソフト】
「せ」
【新実キャスター】
「(苦笑)これ無理ですよ…いま見たら『せそしv』って入ってました。どうしようもないですね…」
目の不自由な利用者のため、今では1日に5~60冊の本を手配しているという杉田さん。
生まれつき弱視で、中学生で全盲になりました。
マッサージ師などの仕事をしていた20代の頃、
健常者との『情報格差』に気づいたことが司書を目指したきっかけだといいます。
【杉田正幸さん】
「小さい頃、実はあんまり本が好きではなくて。目の見えない人が読む本っていうのが少なかったんですね。大人になった時にこれまで情報がそれだけ世の中にあるっていうことが知らなかったのが、知るようになったことで、情報の格差を埋める仕事を、障害のある人とない人で情報の格差を埋める仕事をしたいなと思ったというのがきっかけで」
【新実キャスター】
「自分たちはこれまで情報があるのに触れられてこなかったんだと気づいた時のお気持ちというのはどうでしたか?」
【杉田正幸さん】
「そうですね、色んな本とか雑誌とかこれだけ読めるんだってこととか、これだけ色んな情報が簡単に手に入るんだということは、自分の世界もすごい広がりましたね、やっぱり。生活の幅もすごく広がっていくんではないかなと思いました」
健常者が当たり前のように接している本からの情報。
視覚障害者も同じように情報に接することができれば、世界はもっと広がるはず。
杉田さんはそんな思いから全国を飛び回り、
視覚障害者がより気軽に図書館を利用できるよう、
職員に対応を教える研修会を開いています。
【杉田正幸さん】
「視覚障害者の疑似体験ということでアイマスクをした状態で歩くことがどういう状態であるかとか…」
(※研修の様子)
「そのまま真っすぐ行きます」「はい…あ、すごい、歩くスピードも怖いよね」「あと2m真っすぐ行きます」「2m、はい」
多くの図書館には、視覚障害がある職員がいないため、
杉田さんのような当事者の指導は大変貴重です。
【参加した職員】
「アイマスクをすると本当に見えなくて、あっち、こっちとか使わないでちゃんと具体的に右、左とか、あと2段ですよ、とか。そういうのを言葉で伝えるのはやっぱり大事だと、改めて」
そんな杉田さんは、来年からは次なるステージに挑戦します。
【新実キャスター】
「職場が変わられると?」
【杉田正幸さん】
「はい、来年の4月から国立国会図書館の方で仕事をすることになりました」
【新実キャスター】
「国会図書館!」
実は20年前にも国会図書館の司書を目指したものの、
当時は点字受験が認められておらず断念したという杉田さん。
時代とともにようやく門戸が開かれ、
来年からは国会図書館で正職員として初めての、“全盲の司書”となります。
【新実キャスター】
「国会図書館に行かれるってことは1個フェーズがあがって、もっとこう大所高所から、日本の図書館における施策を変えられるお立場になるっていうことですよね?」
【杉田正幸さん】
「ひとりの職員ではなかなか難しいとは思うんですが、障害当事者が入るという事で全国の障害のある人が全国の図書館を利用できるように、地方に行けば行くほど障害のある方が図書館を利用しにくいということもあるので」
【新実キャスター】
「地域格差もあるんですね」
【杉田正幸さん】
「はい、非常に大きいです。そういったことを改善できればなという風に思っています。視覚障害だからやれる仕事は非常に多いと思っています」
本を通じて多くの人たちに知る喜びを伝えてきた杉田さん。
新たな舞台でも希望を届けていきます。