台風19号による大雨で危険な状態になった相模川。上流にある城山ダムも決壊の恐れがあったため、ダムから大量の水を放出する「緊急放流」を行いました。
過去には下流で氾濫を招き人命が失われたこともある「緊急放流」。決断の舞台裏と下流に住む人たちの避難の実情です。
流域人口・約128万人…相模川上流の「城山ダム」
【新実彰平キャスター】
「相模川の上流にある城山ダムです。ダム湖に目をやりますと、満杯の水と大量のがれきや流木がうかんでいます。ダムが無ければこれがすべて下流に流れていたわけですから、ダムのおかげで被害を減らしたんだと実感します」
10月13日、台風19号が通り過ぎた翌日の城山ダム。
取材したその日もまだ、大量の水がごうごうと音を立てて噴き出していました。
城山ダムは、神奈川県・相模川の上流にあり、流域人口は約128万人。
ダムはこの前日「非常事態」に陥っていました。
【城山ダム管理事務所・影山雅映所長】
「ダム自体が今まで経験したことないような水圧がかかってますので、この時間を長く続けていいのかって色々考えましたし。大きな被害を招くこともあるかもしれないというのが、…悩んだところでございます」
ダム湖が大雨で増水し、決壊する恐れのある状況に直面していたのです。そして、それを回避する方法は一つしかありませんでした。
「緊急放流」です。
ダム湖の調整能力を超えると…「緊急放流」
そもそもダムは、放流量を調節し、川の水位を安全なレベルに保つ役割を担っています。
普段雨が降った時、水位に影響がない程度であれば、ダムに入る雨水の量と同じ量をそのまま下流に流します。大雨の場合は、そのまま流すと下流が増水し氾濫する恐れがあるためダムに水を貯め、調節しながら少しずつ放流を行います。
しかし、今回のように猛烈な雨が短時間で降り、ダムから水が溢れそうになった場合、決壊や越水を防ぐために、入ってくる雨水と同じ量を放流します。
つまりダムの調節能力の限界に達した段階で、これが「異常洪水時防災操作」いわゆる「緊急放流」です。
しかし、過去にはこの「緊急放流」によって人命が失われる事態も。
去年の西日本豪雨で、緊急放流を行った愛媛県の野村ダム。下流が氾濫し、死者も出ています。
いつ「緊急放流」するのか…ギリギリの判断
人の命に関わる、難しい判断。
そのとき城山ダムでは、何が起きていたのでしょうか。
【城山ダム管理事務所・影山雅映所長】
「前もって大きな台風が来るということだったので、予備放流ということで、事前にダムの水位を下げました」
城山ダムでは、台風が上陸する前日の午後、ダムとして下げられるぎりぎりの水位約113mから、さらに1m下の112mまで水位を下げ、台風に備えていました。
しかし、台風19号はダムの管理者の予想をはるかに上回ることになります。
翌12日の朝から猛烈な雨が降り続け、みるみる水位が上昇し始めます。あまりのスピードから、午後1時、決断を下します。それは「4時間後の午後5時から緊急放流を実施する」ことでした。
しかし、午後5時が近づく中、状況に変化が…雨脚が少し弱まったのです。
【城山ダム管理事務所・影山雅映所長】
「雨の降り方が弱くなったり流入量があがってこなかったので、貯めるだけ貯めて、下流に流す量を少なくしようという、そういう余裕ができた」
ダムは一旦、緊急放流の見送りを決定しました。
しかし…午後7時、台風19号が静岡県伊豆市に上陸。そこから雨脚が再び強くなり、水位が上昇し始めます。最高で、毎秒4900立方メートル、約5トンもの水が流れこんできたのです。
城山ダムは再び午後9時に「午後10時からの緊急放流実施」を発表しますが、あまりの勢いに、結局30分繰り上げて、午後9時半から緊急放流を実施しました。
【城山ダム管理事務所・影山雅映所長】
「このまま予定通り午後10時からやった場合、ダムの最高水位125.5mを超えてしまうことが起こりかねなかったので、流域の方にご心配かけたのは本当に申し訳ないのですが、ぎりぎりの判断でやっていたことをご理解して頂きたいと思います」
30分開始を早めた城山ダムですが、一気に放流量を増やしてダムの水位を減らすのではなく、最高水位のわずか12cm下で保たれるよう放流量の微調整を続けました。
【城山ダム管理事務所・影山雅映所長】
「緊急放流をやっているときでも放流量を絞りまして、貯めてぎりぎりの運用をしながら下流に被害が起こらないような形で職員一同つめておりました」
そして、約3時間半後、緊急放流を終了。
神奈川県によると、相模川流域で、氾濫したところはないということです。
住民へ発信される情報にも「限界」が…
この間、相模川の流域に住む住民には、どのように情報が伝えられたのでしょうか。
前日から大量に届いたエリアメール。
刻々と変わる状況に応じて、情報が配信されましたが、最終的に緊急放流が30分繰り上がった際には…
【新実キャスター】
「9時33分に、もう9時半から緊急放流やりますというメールが来てますね。時間的には過ぎてますね」
【女性】
「そう。そのときにはもう流れている」
一方、こちらの男性は漁師をしていて、常日頃からホームページでダムの状況をチェックしているといいます。
【男性】
「避難はね、あんまり遅くなってもあれなんで、私は4時ごろ避難しました。明るいうちに」
【新実キャスター】
「避難の決め手は?」
【男性】
「最初警察がきて、そのあと消防団の方が2人で来てくれて。とにかく危険なので、ここに水が乗るかもしれないと。1軒1軒まわって皆さん説得したみたいですね」
【新実キャスター】
「直接人が来て、『今回まずい』と言われたのが大きかった?」
【男性】
「そうですね。皆さんそうだと思うんですよ 今までそんなことなかったので」
最終的には、直接避難を呼びかけられたことが決め手になっていました。
一方、別の住民は…
【男性】
「とりあえず避難所行って、あとはこの上のダム湖の放水している状況を直接確認して。これだったら大丈夫そうだなという感じがあったので、そのままこちらに(家に)帰ってきた。いろんな情報をトータルして考えると、ダムが決壊することがない限りは安心と思ってた」
「緊急放流」の捉え方によって、異なった住民たちの行動。
危険を知らせる情報を、私たちはどう受け取れば良いのでしょうか。