大阪府の北部にある能勢町は、このまま人口の減少が続けば存続が危ぶまれる「消滅可能性都市」と呼ばれています。
この現状を何とかしたいという想いを持った地元の高校生たちの活動を追いました。
「町の消滅」が予測されるほど…人口が減少
大阪府の北部にある、人口約1万人の能勢町。
豊かな自然に恵まれたこの町の、約8割は森林が占めています。
7月に能勢高校で開かれた、環境省による出前授業。
熱心に耳を傾けているのは、ある危機感を持った高校生たちでした。
【能勢高校・中植航太さん】
「僕たちの小学校が統合で1校になってしまって、中学校も2つあったのが1校になってしまって、もう学校だけの話じゃなくて、町もなくなってしまったら、やっぱり寂しいなということを高校に入ってまた改めて感じて」
【能勢高校・中尾帆介さん】
「能勢町が消滅可能性都市でかなり順位が上の方いるということを聞いて、どうにか自分たちの代でちょっとでも変えられたらなという気持ちがだんだん高くなってきて」
見出した希望…『バイオマス』の活用
町の消滅が予想されるほどの人口減少に、何とか歯止めをかけたいと、生徒たちが考えたのは…
(生徒たちのグループディスカッション)
「太陽光はできそう…もうやってるか」
「能勢は山とか自然が多いから、能勢でできるやつを…バイオマス!」
「バイオマス!」
生徒たちが一所懸命に学び、町の人に知って欲しいのは「バイオマス」=いわゆる木くずなどの自然資源を活かした「再生可能エネルギー」による町づくりです。
能勢町にある資源といえば、何と言っても「広大な山」。これを活かして能勢町は、木材チップを燃やして発電する新たな電力事業を検討していて、生徒たちもこれに期待を寄せています。森林はいま、林業の担い手不足で99%が手入れされておらず、いわば原料に溢れている「もったいない」状態なのです。
【環境省環境計画課長・川又孝太郎さん】
「地元の人たちが自分たちの地域の資源を使ってエネルギーを生み出す、それが地域の経済の活性化につながる。能勢町を何とかしなきゃいけないという、そういう想いをすごく強く持っているので。エネルギーというものを上手く手段として使っていけば、彼らの未来は明るいものになるんじゃないかなと思っています」
バイオマス事業で成功した北海道・下川町
地元の豊かな森林資源を活かしたバイオマス事業で、地域の活性化に成功した町があります。北海道の北部にある下川町は、甲子園球場・約1200個分にもなる4700ヘクタールもの「町有林」を所有し、森林の手入れから収穫・出荷までを町が管理しています。
【北海道下川町森林商工振興課・森林づくり専門員 斎藤丈寛さん】
「5年以内ぐらいに計画では伐採をします。収穫をしてきちんと生産した丸太は、林道のインフラを使ってですね、8社9工場、稼働している町内に全量供給するっていう形ですね」
「循環型の森林経営」を掲げる下川町は、毎年50ヘクタールの森林を計画的に伐採するとともに植林にも取り組み、これを60年かけて育てる持続可能なサイクルを作っています。この森林運営によって木材の安定した生産ができるだけではなく、町が雇用も生み出しています。
ここ下川町の町営施設で作られているのは「木材チップ」です。「間伐」などの際に、森から切り出した木材を原料としていて、本来ならば商品にならないようなものまで有効に利用されています。
町の公共施設の1つ、五味温泉でも、下川町の木材チップが燃料として一年中使われています。
【北海道下川町森林商工課バイオマス産業戦略室長・山本敏夫さん】
「ここでボイラーで燃焼させて、80℃の温水を作る形になります。それで温泉の加温、そして建物の暖房、そういったものに熱を使っています」
木材チップを燃やして熱を供給する「バイオマスボイラー」。15年前に北海道で初めてこの温泉に導入されました。いまでは、11基のボイラーで作られた温水が、住宅や小・中学校、病院など30ヵ所の公共施設へ「熱」として供給されています。
町営住宅の中には、温水パネルヒーターとして熱が届けられます。
【住人の男性は…】
「お湯が通っているだけですから、火災の心配がないんで。ちょっと目盛りを低くして出掛けても全然心配ない。光熱費は灯油のストーブを焚くのとほとんど変わらないぐらいですね。全然高いっていうイメージはないです」
灯油1リットルに相当する木材チップは約4kg。灯油よりも安く、そのコスト削減効果はなんと年間2000万円にものぼります。バイオマスボイラーは、下川町で1年間に使われる約7億円分の「熱量」のうち2億円分を賄っています。
森の中に放置されていたような木から生み出されたこのお金は、給食費の補助や中学生までの医療費無料化など、幅広く「子育て支援」に使われているのです。
子育て世代のお母さんは…
【お母さん】
「歯医者もかからないんです。子どもはかからないので。結構、虫歯あったりするので」
【女の子】「プールもタダだよ」
【お母さん】「あ、プールね」
【女の子】
「スキーもタダ」
【お母さん】
「スキー場もタダなんです、子どもは。あ、スキー場は大人もタダです」
【住民の女性】
「化石燃料は限りがあるので、こういう循環していけるもので熱を生み出せるのはいいと思います」
下川町でのバイオマス事業は、林業にも新たな価値を付け加えながら、地域の活性化にもつながっています。
能勢町にも「広大な山林」、だが実情は…
バイオマスを使った電力事業に乗り出したい能勢町は…
【大阪府能勢町・上森一成町長】
「将来見越した場合、8000ヘクタールの山に木があると。これは大きな資源やから先行投資としてボイラーを入れようと。自給自足的にうちの町のエネルギーをうちで賄える。そういうことで地域の経済を循環させたりですね、そんなことをしたいなと」
ぜひ能勢町にバイオマス事業を取り入れたいと願う生徒たち。
自分たちの生活のすぐそばで、「資源」が手付かずになっている森林を訪ねました。
【高校生】
「土砂崩れとかもたまに起きたりするんですか?」
【地元の森林所有者】
「ああ、ありますあります。森林はもう放ったらかしで。だからこの辺も全部、間伐すればね、もっと大きな枝ぶりになるんですけどね」
20年以上も手入れができない状態が続くという山は、伸び放題の枝葉で光が遮られ、やせ細った木が所狭しと並んでいます。
【高校生】
「いま能勢町でバイオマス発電を行い、住民に電気を買ってもらい、利益で住民サービスを進めるっていう構想があるんですけど、どう思われますか?」
【地元の森林所有者】
「んー、かなりのその費用が要りますね。まずはその材料を出すところから…この道でも大きく道を拡げて…。個人の山の場合はもうほとんど、持ち主が自己負担しなければなりませんので、なかなかそこまでいかないですね」
豊富な資源を前にしながら、一筋縄にはいきませんが、いま能勢町で何が問題なのか、解決すべき課題は見つかりました。
【能勢高校・中植航太さん】
「1個できればそこから拡がっていくので。可能性は増えてるのに使うのにお金が掛かったり人が要ったりで、それを上手く活かせてないから、そこを上手く活かせるように手助けするというか、道をひいてあげたりするのが僕たちの役目かなって思ってます」
次世代の能勢町を担う高校生たち。
「地域活性化」の鍵を握る、バイオマス事業に向き合います。