6月、京都府向日市でシートにくるまれた女性の遺体が見つかりました。
生活保護受給者の男と一緒に逮捕されたのは、担当のケースワーカーの男でした。
真面目と評判だった公務員の男がなぜ犯罪に手を染めたのか。
2人の不可解な関係をツイセキ取材しました。
真面目な“公務員“と、暴力的な“受給者“
【余根田容疑者を知る人】
「結構真面目でしたよ。」
【向日市の会見】
「非常に熱心でまじめな職員です」
事件が発覚したきっかけは、アパートの住民からの通報でした。
『2階の部屋から異臭がする』
6月11日、京都府向日市のアパートの駐車場で白いシートでくるまれ、その上から粘着テープが巻かれた女性の遺体を駆け付けた警察官が見つけました。
【記者リポート】
「非常に静かな住宅街です。あちらの黒いシートが張られた部屋に生活保護を受けていた男が住んでいました。男は、警察が駆け付けた時、アパートの駐車場で車を運転しようとしていました。さらにその近くにはケースワーカーの男が立っていました」
ケースワーカーとは、生活が困窮している人の相談を受けて自立の手助けをする仕事です。
警察は、このアパートの1階に住む無職の橋本貴彦容疑者(55)と向日市職員で橋本容疑者を担当するケースワーカーの余根田渉容疑者(29)を死体遺棄の疑いで逮捕。6月20日には、共犯者として圖越幸夫(52)容疑者を逮捕しました。
自分の車を貸し、部屋まで代わりに契約
警察の調べに対し、余根田容疑者は『犯行を手伝わされた』と供述しています。
警察は、橋本容疑者の自立を支援するはずのケースワーカーである余根田容疑者が従属的な立場だったとみているのです。
余根田容疑者の人柄を知る人は、口をそろえて真面目な良い人と話します。
【余根田容疑者を知る人】
「結構真面目でしたよ。我々もいろんな相談に乗ってもらって真剣にやってくれはるし」
【余根田容疑者の同僚】
「誰に聞いてもすごく評判がいいです。仕事も丁寧だし。とても責任感が強くて、その中でもしかしたら抱え込んでしまったのかなとは思います。周りの誰にも言えないくらい、すごく追い込まれていたのではないかなと思います。」
真面目で責任感が強いケースワーカーだという評判でしたが…。
【余根田容疑者を知る人】
「気の弱い男やわ。上からちょっと言葉言うたらもうしゅんやわ。」
一方、橋本容疑者を知る人は…
【橋本容疑者を知る人】
「大声で『しばいたろか』って電話しているのを何度も聞いた」
【橋本容疑者を知る人】
「なんかいかつい感じで、歩き方とかも全然違うから、態度が大きくって、誰が見ても普通の人じゃない。すぐ分かります。50万円もってこいというのを聞いた」
ケースワーカー余根田容疑者とは対照的に、暴力的な言葉を使う姿を頻繁に見かけられていた橋本容疑者。取材を進めると、余根田容疑者が橋本容疑者に協力しているかのような行動が浮かび上がってきました。
【記者リポート】
「大きな冷蔵庫のようなものを運び出してきました。」
警察は2階の部屋から押収した冷蔵庫の中に女性の遺体を隠していたとみています。
ところが2階の部屋の名義は橋本容疑者ではなくケースワーカーの余根田容疑者のものでした。また警察が駆け付けた時、橋本容疑者は車を運転しようとしていました。
実は、この車は余根田容疑者のもので、生活保護を受けていた橋本容疑者が日常的に使っていたとみられます。
さらに…。
【記者リポート】
「京都府内のホームセンターで橋本容疑者が白いシートと粘着テープを購入しました。さらに後日、余根田容疑者が、粘着テープと消臭剤を買っていったということです」
捜査関係者などによると、6月3日、橋本容疑者は京都府内のホームセンターで白いシートと粘着テープなどを購入しました。そして6月6日、次は余根田容疑者が同じ店で粘着テープや車用の消臭剤も購入していたのです。
ケースワーカーの余根田容疑者は橋本容疑者のために家を借り、車を貸し、さらには遺体の隠ぺい工作のためともとれる買い物までしていたことが分かりました。
これらのことから、橋本容疑者は余根田容疑者を自分の支配下においていたのでしょうか。
一人では対応しない「はず」だった。
余根田容疑者が勤務していた向日市役所は橋本容疑者についてどのような認識をしていたのか取材しました。。
【向日市 市民サービス部 川本進副部長】
「あのいわゆるこのケースにつきましては処遇困難ケースに該当しているという認識でおりました。上司との同行訪問、これを基本としていました。」
橋本容疑者は、生活保護費増額を強く要求したり、1時間を超える電話を頻繁にかけてくることなどから、「注意が必要な人物」と認識。
向日市は橋本容疑者について、原則2人で訪問することを決めていて、記録されている約15回のほとんどは、上司などと訪問していました。
しかし、余根田容疑者が1人で訪問した数回のうちにケースワーカーと生活保護受給者の関係を超える出来事がおきてしまったのかもしれません。
【向日市 市民サービス部 川本進副部長】
「なんで気づいてあげられなかった、ずっと後悔しているところなんです。やはり組織として情報の共有とか対応の仕方やり方とか含めてそういうことの大切さを改めて痛感している次第です」
”危険と隣り合わせ”でもある「ケースワーカー」
ケースワーカーに危険がおよぶことは、珍しいことではありません。
関西テレビは、京都府内の26の市町村にアンケート調査を行いました。
結果、ケースワーカーの仕事は常に危険と隣合わせであることが分かりました。
==アンケートの回答より==
『訪問した時に刃物を向けられた』
『女性のケースワーカーに一人でくるよう迫ってきた』
また暴言や暴力などに関しては、ほとんどの市町村から経験があるとの回答が返ってきました。
こうした事態に、12年間ケースワーカーとして働いた経験を持つ専門家は「組織内で危機意識を共有することが重要」と指摘します。
【花園大学社会福祉学部・吉永純教授】
「組織的に上司含めて、そのような行動があったときはどうするか、あらかじめ打ち合わせしとく。不透明さをなくすというかその人との関係を透明化していく。精神的にも物理的にもワーカーを1人にせずに守っていくということがまずは第一かなとそれに尽きると思います」
病気や障害などで働けない人のために、手助けをするケースワーカー。
しかし、自分の身に危険がおよぶことは絶対にあってはいけません。
どうすれば防げるのか、行政などの対策が急がれます。