重大な裁判に一般市民が参加する裁判員制度が始まって、5月で丸10年を迎えます。
司法に市民感覚を反映するため、この10年で6万人以上が裁判員を務めましたが、裁判員へのアンケートで『非常に良い経験だった』、または『良い経験』と感じた人を合わせると95%以上になっていて、多くの人がやって良かったと感じています。
一方で、生々しい証拠や証言と向き合ったり、仕事を休んだりと、裁判員に大きな負担がかかることも問題になっています。
実際に選ばれた時にどんな事態に直面するのか、厳しい守秘義務の中、裁判員経験者が語ってくれた証言から制度の課題を考えます。
精神的な負担、悩んで導いた「死刑判決」でも…
【裁判員経験者】
「家にこういう封筒が届いてまして、中を開けたら実際に裁判所に来てくださいと」
大阪に住む30代の男性。
去年「ある事件」の裁判員に選ばれ、裁判所へと呼び出されました。
【裁判員経験者】
「すごい重大な事件に当たったんだと。被告が3年間、何も語っていない。難しくなるなと思った」
~寝屋川中1男女殺害事件~
2015年に平田奈津美さん(当時13)と星野凌斗さん(当時12)が行方不明になった後に遺体で発見。山田浩二被告(49)が2人の首を絞めて殺害した罪に問われました。
【寝屋川事件の裁判員】
「(手で丸を描いて)この席ですね。一番右端ですね。目は合いましたね」
初公判の冒頭で山田被告は、3年間の黙秘を破り予想外の行動に出ました。
(山田被告)
「この度は、経緯はどうであれ、私が死の結果を招いて申し訳ありませんでした」
(裁判長)
「山田さん!元の席に戻りなさい!法廷にいられなくなっちゃうよ!」
裁判長の指示を無視して山田被告は遺族に向かって土下座。一方で、殺人の罪を否認したのです。
【寝屋川事件の裁判員】
「(山田被告は)いい意味でも悪い意味でも正直な人だと感じた。謝罪をするにも筋とかやり方があると思うので、そういうことを通り越してのこの行動(土下座)はいかがなものだと思った」
裁判はその後、殺意の有無や死因などについて検察と弁護側が全面的に対立。
専門家の意見も割れる中、裁判員3人(※補充裁判員含)が途中で辞める異例の事態となりました。
それでも男性をはじめ、残った裁判員たちは裁判官と話し合いの末、死刑を選択しました。
【寝屋川事件の裁判員】
「(以前は)ニュースを見ていてもすごい悪く言うと人を何人も殺しているから(罰は)こうあるべきと簡単に考えていた部分があったと思うが、(死刑は)人1人の命を動かすといっても過言ではないことだと思う。そこに関しては判断をするのは辛く、重かったなと思います」
裁判員たちが悩みながら導いた「死刑判決」
しかし、山田被告が控訴し裁判はプロの裁判官だけで判断する控訴審に舞台を移しました。
男性は今ある懸念を抱いています。
【寝屋川事件の裁判員】
「高裁で判決がひっくり返る可能性は十分あると思っています」
制度が始まった当初、裁判員の判決を控訴審が破棄するケースは「4.6%」と、通常の裁判に比べて低く抑えられていました。
しかしその後、破棄される割合は上がり、2015年には「14.1%」と通常の裁判より高くなりました。
また、裁判員裁判でこれまで37人に死刑が言い渡されましたが、控訴審が「過去の裁判例から踏み出すのは困難」などとして、無期懲役に減刑したケースは5件に上ります。
【寝屋川事件の裁判員】
「(死刑は)精神的負担がありながら決めた結論なので、(高裁は)そこを尊重してもらわないと制度そのものに疑問点がつくと思う」
最長では「200日超」も…日常生活への影響
裁判員の判断が反映されないことに加えて、問題になっているのが「拘束日数」です。
【裁判員経験者】
「裁判自体は100日以上の裁判だったので、さすがに『長いな!』と、その間仕事とかどうするんだろうと不安を覚えた」
会社員の男性が裁判員に選ばれた事件は、初公判から判決まで100日を超えました。
週のうち月曜と火曜は仕事、水曜から金曜は裁判という日々が続きました。
【100日を超える裁判の裁判員】
「1週間のエネルギーを3日で使い切る感じだったので、どうしても仕事の時はしんどい体に鞭打ってという感じでした」
裁判員を何とか務め上げた男性。しかし、職場に戻った後も苦労は続きました。
【100日を超える裁判の裁判員】
「『なんでそんなん知らへんねん!』と言われて、はじめ元に戻すのに苦労した。実はちょっと会社であったのが『こいつはこの仕事が嫌だから裁判員を受けたんだ』というような憶測。なかなか理解を得られないのが実情」
100日を超える裁判は、裁判員の日常生活にも影響を及ぼしたのです。
10年あまり前、裁判所は「すぐ終わる」という触れ込みで制度をPRしていました。当時の取材テープでも、街頭で裁判官が制度の紹介をする様子が残っていました。
【大阪地裁の裁判官(2008年)】
「調査によれば裁判員対象事件の7割は(裁判が)3日以内で終わる。難しい言葉などは私たち法律家が説明するので、みなさんは「普通の感覚」で来てください」
当初は言葉通り、裁判員裁判の期間は平均「3.7日」でしたが、増え続けて現在では「10.8日」に。長期化に伴って裁判員を辞退する人の割合も当初の53%から67%まで増えました。
中でも去年、神戸地裁姫路支部で行われた殺人事件の裁判は過去最長となり、期間はなんと207日。辞退率は84%にも上りました。
一方で注目すべき動きも出ています。
制度支える「市民の理解」や「社会の協力」
【記者リポート】
「裁判員制度に欠かせないのが企業の協力ですが、ここ、ユニバーサルスタジオジャパンでは、ある特別な制度で裁判員に関わる従業員を支援しています」
アトラクションのメンテナンスを担う北尾学さん。
【USJテクニカルサービス部・北尾学課長代理】
「僕じゃなくて、妻の方が(裁判員に)選ばれまして妻が参加した。特別休暇というのが会社であって、それを利用した」
USJは地域貢献の一環として従業員本人は勿論、配偶者が選ばれた場合でも有給消化なしで休める制度を導入しています。
妻の亜樹さんは、当時息子が幼稚園に通っていたため辞退も考えましたが、夫に子育てを任せて3日間、裁判員を全うすることができました。
【裁判員を務めた北尾亜樹さん】
「(夫に)休んでもらったはいいけど、そのあと会社に迷惑がかかったらどうしようというのがあったので、それを気にすることなく休める。気にしなくていいってことでホッとした。(裁判員をやって)世界が広がった。本当に狭い世界で視野も狭かった。実際そういうところに行かせてもらって子供とちょっと離れた世界を見てよかったと思います」
裁判員制度は市民の理解や社会の協力があって初めて成り立ちます。
「裁判の判決」だけでなく「制度そのもの」もより良くするために、私たち一人一人が考え続ける必要があります。