【薄田ジュリアキャスター】
「大阪市住吉区のパン屋さんに来ています。この幟には…見てください!『感動の100円パン』と自らね、ハードルをあげちゃってるんですよね。どんなパンなんでしょう」
京都に本社を置き、8年前に事業をスタートした「京都伊三郎製ぱん」。
100円均一パン専門の人気店です。
【薄田ジュリア】
「うわぁ店内広いですね。パンの種類が多い!」
店内に所狭しと並ぶ100円均一パン。品数は150種類あります。
【地元客】
「ほかの100円パンのところよりおいしいと思います」
Q:100円クオリティじゃないですよね?
「(100円)クオリティじゃない。職場のみんなにもお土産を…」
と、そこへ…
「いらっしゃいませ~ありがとうございます」
奇妙なコスプレでお客さんに絡むこのキャラクターは一体ナニモノなのか…
【薄田ジュリア】「えっのぶちゃんマン?」
【???】「のぶちゃんマンです。はい自分大好きで…笑」
この人が経営者の滝下信夫社長。
元々、アウトレット家具店を経営し、最盛期には、全国18店舗を展開していました。しかし、リーマンショックのあおりを受けて会社は倒産寸前に。
命運をかけて参入したのが、まったく畑違いのパン業界でした。
【薄田ジュリア】
「いま、アウトレット家具の事業もされてるじゃないですか。そこの売り上げと比べて?」
【滝下信夫社長】
「ちょっと大きな差がついたんですけど、家具のほうはやはり今、苦戦はしてます」
今はパン事業のほうがかなり儲かっているそうで、当時の会社の方針転換に、家具屋さんに就職したはずの社員は、いまやパン屋さんの店長に…
【京都伊三郎製ぱん・亀岡店・豊嶋店長】
「(4年前にん)突然、社長から来週からパンに行ってくれっていきなり言われて「えぇ~」って信じられなかったけど「わかりました」って。物を売る基本は変わらないので…一生懸命楽しくやっています」
売上と社員のハートの両方をがっちり掴んだ100円均一パン。
私たちも視聴者の皆さんのハートをがっちり掴むべく、こんなことまで聞いちゃいました!
【薄田ジュリア】
「採算の合わないものを教えてもらっても?」
【滝下信夫社長】
「いいですよ。お客さんにお得に感じてもらえたら…クロワッサン生地は原価が高いですね」
店内随一のお得な100円パンがこちら…「ダークチェリーのクロワッサン」。
パン業界の原価率は販売価格の3割から4割と言われますが、このパンの原価率はなんと7割!通常の倍です!
【薄田ジュリア】
「サクサクおいしい!このダークチェリーが3つもあって甘酸っぱくておいしい!100円クオリティじゃない!」
しかし、100円均一にもかかわらず、なぜ事業を成功することができたのでしょうか?
【賃料格安!京都ブランドを売り込め!】
現在、全部で49ある「京都伊三郎製ぱん」。実は、そのうち47店舗が九州にあります。
【薄田ジュリア】
「九州にどんどん出店していったのにはどういった要因が?」
【滝下信夫社長】
「ひとつはコストの中で賃料がありますので、そこを抑えるために都市部ではなくて地方の住宅街でしたら賃料が安い」
また撤退したコンビニの跡地利用や、競合するパン屋さんがいない過疎地域への出店。京都から来たというブランドとは裏腹なその安さが地元住民の心を鷲づかみにしました。
そして、最大のコストダウンの秘密がこれです。
【薄田ジュリア】
「若い方多いですね?」
【滝下信夫社長】
「そうですねおかげさまで若い主婦の方もおられれば学生の方もおられて…」【スタッフ】
【スタッフ】
「いやいや主婦じゃない!」
【薄田ジュリア】
「ちなみに普段は何をされてるんですか?」
【スタッフ】
「バツ1で…」
バツ1が秘密ではなく、この生地です!
【薄田ジュリア】「午前3時に来てまず生地作りから?」
【滝下信夫社長】「生地は作っていないです」
【薄田ジュリア】「どういうことですか?」
【滝下信夫社長】「生地はこうして送られてくるんです!」
パン屋さんが生地を作らないとは、一体どういうことなのでしょうか?
【安さ・うまさを支える生地のヒミツ】
【薄田ジュリア】
「大きなトラックがたくさん並んでいるこの運送会社の上の階にですね、なんとパン工場が入っているんです。なんとも不思議なんですが、この2つの会社の関係も今回のニュースなオカネなんです」
こちらは京都のパン屋さん、「ブラン・ドゥ・ブラン」が運営する工場。
【薄田ジュリア】
「あ~寒い。ここはどういう部屋?」
【ブラン ドゥ ブラン・白成俊副社長】
「ここは関西一円60店舗に生地を供給するために生地を運ぶ準備をする場所になります」
【薄田ジュリア】「60店舗も?」
【白副社長】「そうですね」
ここではこだわり抜いた16種類の小麦粉を、独自ブレンドした製法で、パン屋さんに卸す生地28種類を作っていました。
ひたすら生地作りに励む従業員の姿が、印象的なんですが…。
【薄田ジュリア】「パンは好きですか?」
【従業員】「あ~好きではないですけど…」
【薄田ジュリア】「違うんか~い!あんまり好きじゃないって人いないですよ」
この工場では、生地を寝かせるための部屋の温度をマイナス5度で徹底管理することで、そのおいしさを実現させました。
【白副社長】
「この温度にすることによって、イースト菌を殺さずに眠らせてるという状態を作っている」
【薄田ジュリア】「この温度がベスト?」
【白副社長】「ベストですね。これで配送かけるんで、この温度にすることで店舗に届くころにはいい感じの状態になっている」
ここで作られた生地を扱う店舗は、「伊三郎製ぱん」をはじめ、関西で60店舗。
そして、出来立ての生地を当日のうちに運ぶのが同じ建物に入る運送会社なのです。ドライバーは、閉店したパン屋さんの店内にスペアキーで入り、生地を納品します。
【ブラン ドゥ ブラン・白成鶴社長】
「物流倉庫に(パン)工場を設けると、(荷物を)取りに来る作業がなくなる。より物流費を抑えることができる」
【薄田ジュリア】
「安定して使ってたら向こうも料金を下げてくれる?」
【白社長】
「そうです。そういったことでどんどんコストが落ちていきました」
さらに小麦粉の大量仕入れや、店舗からの発注を受けて、必要な分だけ作る、完全受注制にすることで、無駄なくコストを抑えることに成功。2003年設立当初の売り上げは1億円でしたが、100円均一パンの店舗が急増したことで、去年の年間売り上げは90億円に達しました。
【白社長】
「生地作りは本当に大変なんですね。本当に心臓部分であって。(労力の)90%を占めるという人がほとんど。それを我々が一括して担う」
品質のよい生地を安く入手できるようになったことで、家具屋から新規参入した「伊三郎製ぱん」でも、人気の100円均一パンを提供できているのです。
【ぱんの蔵】
生地を作っている「ブランドゥブラン」が直営するこのお店も、100円均一。
【天使のパン】
さらにパン作りの経験がないスタッフだけで始めたこちらのお店でも、少ないリスクで運営することができるようになりました。
【天使のパン・蓮尾愛香店長(25)】
「自社でパン生地を作るとなると本当にたくさんの労力がかかってしまうんですけど、そこを生地を提供していただくということができたからこそ、オープンというか最初からできたと思います」
100円均一パン。
人気の背景には、生地製造業者・運送業者・販売店・そしてお客さん4者の「ウィンウィン」な、おいしい関係がありました。