大阪・貝塚市を走る私鉄、「水間鉄道」
社員60名ほどの小さな会社なのですが、この春、数十年ぶりにある嬉しい出来事がありました。
■5.5キロを結ぶ、地域密着の鉄道会社
貝塚市の、のどかな住宅街を走る水間鉄道。
大正14年に運行を始め、貝塚駅から水間観音駅との、5.5キロを結びます。
1時間に往復3本ずつと、本数は少ないですが、地域の人には欠かせない存在です。
水間鉄道を普段から利用する方にお話を伺うと…
「上のほうに行くと水間観音もあるし団地もあるし、どこへ行くにもこの電車乗るからね」
年配の皆さんだけでなく若い世代にも親しまれていて、利用者の女子高生は「小学校の時からずっと使ってる。(水間鉄道がないと)めっちゃ不便。きつい。」と話します。
■平成最後に…待望の新卒社員
地域密着の水間鉄道ですが、ここ数十年、新卒の社員が入ってこないことが悩みの種でした。
【水間鉄道・鉄道部長・谷本憲隆さん】
「なかなか募集をかけても中途採用が中心に応募されてきますので、特に若い人はこないですね」
しかし、この春…
【谷本部長】
「辞令、金尾卓弥どの。鉄道部技術係員を命ずる。平成31年4月1日、水間鉄道株式会社」
【金尾卓弥さん】
「ありがとうございます」
20歳の新人、金尾卓弥さんが入社したのです。表情を見ると…まだ少し緊張気味ですね。
【金尾卓弥さん】
「期待と不安がすごく入り交ざって複雑な感情ですが、これをバネにこの会社に貢献していきたい」
■指導する先輩とは「50歳差」
幼い時から鉄道マンになるのが夢だった金尾さん。専門学校では鉄道学科で学び、去年、就職活動中に水間鉄道の求人広告を見つけました。
【金尾卓弥さん】
「大手も視野に入れていたんですけど、大阪は大都市線ばっかりじゃないですか、近鉄やJRしかり。小さい営業規模の中で生きていけるってどんなに魅力があるのかな」
実は金尾さん、一日でも早く仕事を覚えるために2ヶ月前から研修を始めています。
線路の補修などを担当する技術職の採用で、この日は古くなった遮断機のポールを取り替える作業。
指導にあたるのは年の離れたベテラン技術者たち。すぐ上の先輩とは年齢が50歳も離れています。
40年間・技術一筋!の職人・岸本勇さん、金尾さんへ職人らしく「大きな声で、短く、飾らぬ言葉」で指示します。
【大先輩の岸本さん】
「節目にまいたらアカンねん。もうなんべん言ったらわかるん。巻いたんやったらええわ、節目にテープだけでいいねん」
【大先輩の岸本さん】
「(遮断機のポールを)奥まで入れた?」
【金尾】「…はい」
ところが、遮断機を上げてみると…まだ作業は完了していなかったようで、ポールがずれてきました。
【大先輩の岸本さん】「奥まで入ってないやんけ!」
金尾さん、怒られました。慣れない作業にまだ戸惑いが隠せません。
【金尾卓弥さん】
「えげつないほどしんどいです。全然わからないです。(先輩が作業を)やってくださると思ってた」
【岸本さん】
「何を言うとるんや(笑)。やってこそ覚えるんやから」
【金尾さん】
「頑張ります」
厳しい指導は期待の表れでしょうか。
50歳も大先輩の岸本さん、新入社員の金尾さんに伝えたいことがたくさんあるようです。
【40年間、技術一筋・岸本勇さん】
「ちょっとまだあれですね、これから現場で経験積んでもらって、ただきれいごと言ってるわけじゃない。ダイヤ通り走らせるのが我々の使命なんで」
「安全に運行する使命」は、きちんと伝えたいんです。
指導の口調こそ厳しく見えましたが…岸本さん、ちょっと嬉しそうです。
■入社祝いに…友人からサプライズ
2カ月の研修を終え、迎えた4月1日、入社の日です。
貝塚駅の駅舎へスーツ姿で出勤し、先輩方に改めて挨拶をします。
【金尾卓弥さん】
「おはようございます。本日より技術部に入社することになりました、金尾卓弥と申します。精一杯働かせて頂きます。よろしくお願いします」
決意も新たに、早速、仕事に向かおうとすると、ちょうどホームに電車がやってきました。
ですが、先頭車両に何か気になるものが…金尾さんもそれに気づきました。
【金尾卓弥さん】
「え、アレっすか?あれはダメでしょう!…笑いしか出てこない!」
なんと電車のヘッドマークに「金尾さんの顔」が!
そこに現れたのは…金尾さんの野球観戦仲間の友人たち。実は友人たちが入社のお祝いにと、金尾さんの写真入りのマークをサプライズで取り付けてもらったのです。
大きくレイアウトされた、自分の顔写真。嬉しさと恥ずかしさと…友人たちのやさしさに、金尾さんも思わず涙ぐんでいました。
【金尾卓弥さん】
「良かったですけど…すごく恥ずかしいです。一生思い出に残る入社式になりました」
将来の水間鉄道を背負う鉄道マンになるために。一人の若者の夢が走り始めました。
■金尾さんも感激した、水間鉄道の「ヘッドマークサービス」
ちなみに…
友人の皆さんがサプライズで行った「ヘッドマーク」のプレゼント、実は水間鉄道では5年前から知名度を上げるために行っているサービスだそうで、一般の人や企業も申し込みできるんです。
好きなデザインや写真を電車に実装して「10日間」走らせることができるそうで、お値段は税別1万円!使用したヘッドマークは10日間が終わればもらえるそうです。
水間鉄道の「ヘッドマークサービス」、現在大人気で、今応募すると予約しても3か月待ちだそうです。