【客】「おいしいな。上手に作ったるわ」
【客】「静かだし雰囲気がいい」
ずらりと並んだ家庭料理で連日大盛況のランチバイキングに…外国人観光客も数多く訪れる人気の宿。
【オーストラリア人観光客】
「ステキな建物で食べ物もおいしかったわ」
実はここ、もともとは13年前に廃校となった学校なのです!
和歌山県田辺市の上秋津地区にあるこの宿は、新聞社が調査した「廃校の宿ランキング」で1位に選ばれました!
【秋津野ガルテン 玉井常貴社長】
「レストラン、体験、宿泊。そこでお金を使って交流している人たちが7万人います(今年度見込み)」
のどかな山間にあるこの施設の年間利用者は、地区の人口の約20倍!!。和歌山大学の調査によると、一緒に運営している直売所と合わせて、田辺市周辺への経済効果は年間10億円にのぼります!廃校を活用することで、街に再び活気を取り戻しているんです。
少子化などの影響で、卒業シーズンを迎えるたびに増え続けている廃校。その数はなんと…
全国で毎年「約500校」。文部科学省は9年前から「みんなの廃校プロジェクト」を立ちあげ、廃校の活用を呼び掛けています。
関西で利用者を募集しているほとんどが京都府と兵庫県。いずれも都会から離れた場所で地方にとっては廃校をどうするか重要な問題なのです。
そんな中、徐々に増えているのが民間企業による廃校活用です。
【薄田キャスター】
「今度廃校を利用されると聞いたんですけど」
【木栄 足立栄逸会長】
「この1月に契約を丹波市として、いま工事に入ったとこなんです」
こちらは、兵庫県丹波市にある木材の加工会社です。活用する廃校は会社のすぐ近く。おととし、144年の歴史に幕をおろした神楽(しぐら)小学校です。
Q:何か作ってます?
【木栄 足立栄逸会長】
「もう工事入ってますので。憩いのひろばとしてテラスを使ってもらおうと思って。地域の木材のPR。家建てられるとか木工に興味がある人に見てもらおうかな」
この会社では、廃校を自社製品に触れあってもらえる展示場にしたいと考えています。
そして、現在も地域の避難所になっている体育館では、自社で開発した木製のパーテーションを展示する予定です。
【木栄 足立栄逸会長】
「いつ泊まりに来てもらっても。常設してますんで。実際寝てみると。いいかなと思います」
木工製品の展示場として再生する廃校。足立さんはここを市から無料で借りています。
廃校は維持費だけでも年間数百万円かかると言われていて自治体にとっては、その負担を軽くするメリットが。企業にとっては、初期費用を抑えて新たなビジネスチャンスにつなげられるのです。
実は足立さん、61年前のこの学校の卒業生。この廃校の活用にはビジネスだけではない思いも詰まっています。
【薄田キャスター】
「見てください。黒板なんて「ありがとう」って卒業式のままですよね。これどうする予定なんですか?」
【木栄 足立栄逸会長】
「ひとつ教室に持って行って展示しようかと思っています」
誰も使わなければ、廃校の時間は止まったまま。ことし5月の施設オープンに向け、止まっていた時計の針がゆっくりと動き始めました。
こうした企業による廃校活用が進む中、関西でそのビジネスチャンスをものにした先駆けの企業とは…
【薄田キャスター】
「ここはどういう会社なんですか?」
【但馬醸造所 大友進工場長】
「お酢を作っとるんです」
兵庫県養父市にある「但馬醸造所」。11年前、「日の出みりん」で知られる食品メーカーが新たに手掛ける酢の工場として設立しました。
【薄田キャスター】
「ここ学校だったんですね。大きなタンクが並んでて異様ですね」
【但馬醸造所 大友進工場長】
「ここ体育館です」
体育館の中にずらりとならんだ巨大タンク!!かなり不思議な光景ですが…これだけの大改造、一体いくらかかったのでしょうか?
【但馬醸造所 大友進工場長】
「学校って頑丈に作っとるから改装するのにお金かかる。4億ぐらい投資しとるからね」
Q:新しくまた工場を建ててもよかったんじゃないですか?
「その通り。もっと安くできたかもしれない」
なんと改装費用は4億円!!! コスト面でのメリットは正直いってうすいようですが、あえてこの廃校を選んだ理由は…
【但馬醸造所 大友進工場長】
「醸造してますから水はかかせない。周りに工場も何もないので汚染されてないんです」
決め手になったのは学校周辺の豊かな自然。酢の原料となる米も近くの田んぼで自分たちで作っていて、質の高い酢作りには適した環境だったんです。
ここで作られている酢の半分は海外向けで9か国に輸出しています。商品の良さだけでなく、海外の人にとって廃校を活用していることは企業イメージのアップにもつながるんだとか。廃校という環境をフル活用することでコスト面のデメリットを補い、売り上げは右肩上がりなんです!!
【但馬醸造所 大友進工場長】
「おもしろいでしょド田舎の山奥の廃校跡でお酢を作っとる。それを海外に出す。神戸の港で作って海外に出すより、ここやからおもしろい!」
こうした企業の存在は、地元にとっても大きな影響が・・・
【養父市 商工観光課 柳川武課長】
「企業の方が来ていただけるというのは、雇用が発生しますので地域経済の活性化で大きな役割を果たしていただいている」
但馬醸造所で働く従業員の8割が養父市民。中にはこの学校の卒業生も…
【卒業生】
「この学校で育って気になったのもあったし。働いてみようかなと思いました」
【卒業生】
「地域にとっては活性化。明かりがともったみたいで。若い方もたくさん務めてられますし」
但馬醸造所をモデルケースに、養父市も積極的に企業を誘致していて現在5ヵ所がオフィスや工場などで活用されています。
少子化で、廃校の数はこれからも増加するとみられています。その活用は、企業にとってはビジネスチャンスに―。地元にとっては希望の光となる可能性を秘めています。