過去最悪のペースで被害が出ている特殊詐欺。大阪の特殊詐欺で検挙された未成年の数は…なんと去年の4倍にも増えているんです。
その未成年の多くが「受け子」とよばれる現金を取りに行く役割を担当しています。なぜ若い世代が特殊詐欺に手を染めるのか?関西テレビは「受け子」を勧誘する人物から驚きの手口を聞くことができました。
■金融庁職員を名乗った「受け子」は、「19歳」だった
滋賀県大津市に住む70歳の男性。
【被害者男性(70)】
「若いなっていうのは思ってたけど、巧みにやられたもんで全く気づかなくて」
去年6月、男性は巧妙な手口で被害にあいました。
警察を名乗る人物から「キャッシュカードが悪用されているので金融庁の職員を向かわせる」と電話があり、通話したまま待っていると…
【被害者男性(70)】
「若い男がいてるんだけどって(電話で)言ったら、若いように見えるけど30は過ぎてますって聞いてたから、そういうところが信用してしまうっていうか・・・」
金融庁職員を名乗る男は、男性に封筒を渡し、カードと暗証番号を書いた紙をいれて1週間封をあけないよう指示。男性が、印鑑を取りにいく隙に、封筒をすり替えそのまま帰っていきました。
不審に思った男性が、手元の封筒を開けると中には覚えのないカードが3枚。すぐにカードをとめましたが、50万円が被害にあいました。
高齢者を狙った卑劣な犯行。逮捕された「受け子」役の若い男は、なんと「19歳」の少年でした。実は今、このような手口の「特殊詐欺」で捕まる少年が増えています。
大阪府警が特殊詐欺で検挙した未成年の数は、おととしが15人なのに対して、去年は67人と4倍以上に跳ね上がっています。
■最も捕まるリスクが高い「捨て駒」…受け子
大阪府内では去年、弁護士になりすました中学生までもが逮捕されていて、特殊詐欺犯の若者の増加が問題になっています。検挙される少年の多くが、「受け子」とよばれる役です。
一般的に特殊詐欺は、首謀者から実行犯まで多くの人間が関わるピラミッド構造になっています。首謀者の下に金を管理する「番頭」、その下に被害者に電話をかける「かけ子」。一番下に現金やカードを受けとる「受け子」やATMでお金を引き出す「出し子」がいるのです。
警察によると「受け子」の報酬は、だましとった金の3~5%ですが、直接被害者と接触するため、捕まるリスクは非常に高く、詐欺グループの「捨て駒」のような存在だといわれています。
Q:(受け子とか聞いたことはありますか?)
町の若者に聞いてみると…
「あります結構あります。運び屋じゃないけどそんな感じ」
「お金がない人にとってはありだとは思う。犯罪だけどね。普通に考えたらよくはない」
「1時間で5万円だったらちょっといいかも。先輩がしてるってなったら、ちょっと迷うかな。知ってる人がやってたらね」
どうして犯罪に加担するとわかっていながら、特殊詐欺に手を染める若者が増えているのか。大阪府警のある捜査関係者は、詐欺グループ側の人不足が背景にあるといいます。
【捜査関係者】
「詐欺のリスクが周知されて手を染める人が減った。若者はハイリスクで安い報酬でも簡単に集まるため、知識がない未成年に手が伸びている」
さらに、もう一つ、大きな要因が…
【捜査関係者】
「情報化社会が進んで、若者がSNSで簡単に詐欺の情報にアクセスできるようになった」
■SNS上には驚くほど堂々と「受け子」の募集が…
実際、「ツイッター」で「闇バイト」と検索してみると…
『大阪、受け子、募集中です!』
『案件は特殊受けだし、条件は日当30万』
堂々と特殊詐欺の「受け子」を募集する書き込みがある一方・・・
『加古川、明日中に10万円くれるお仕事ないですか』
闇バイトを「求める声」も大量に見つかりました。
取材班は今回、ツイッターで「受け子」を募集する人物に接触。
すると、番号を明かさず通話できるアプリで電話するように指示されました。
【記者】
「あの、ツイッターでやりとりさせてもらったんですけど、仕事の内容を詳しく聞きたくで電話させてもらいました」
【リクルーター】
「報酬は1件につき10万ですね(1回やったら10万?)基本的に出れたら1週間出れたりとかしますか?でれる週は極力出ていただいたほうが、月100万とかはいきますね。(でればでるほど報酬があがる?)そうですね。カードのこと板っていうんですけど、枚の枚数に(報酬は)よるんですね」
慣れた口調で話すのは、「リクルーター」という役の男。
「受け子」の勧誘をする役割で、言葉巧みに「安全である」と強調します。
【リクルーター】
「基本的に移動の時は私服で移動してもらう。対象の家の近くの公園とかのトイレとかコンビニで、できればカメラがない方がいいですけど、そこでスーツに着替えてもらって受け取った後にまた私服に戻るみたいな感じですね」
Q:(それって捕まるリスクはないんですか?)
【リクルーター】
「“現場さん“って、お客さんの方に電話かけてるんですよ。お客さんと電話しながら、自分たちにも電話かけてくるんですよ。2つとやりとりしてるんで、常に。電話つなぎっぱで現場に向かうんですよ。なので、警察呼ばれるリスクはないです」
「現場さん」とは、被害者に電話をかけるいわゆる「かけ子」と同じポジションの人物。
被害者と電話をしながら動向を伺うと同時に、「受け子」にも電話で動き方をその都度丁寧に説明するため「絶対警察に捕まることはない」というのです。
【リクルーター】
「(ツイッターで連絡とっている?)メンバー足りてないんですよ、諸事情で。なので緊急で。(やるとしたらきょう?)今日ではないです。できれば明日か明後日。明日と明後日、ちょっと人数足りてないのでできればお願いしたいんですけど」
このあと記者だと明かすと・・・
Q:これ犯罪じゃないですか、罪悪感とかないですか?
【リクルーター】
「それはお答えできないですね」
Q:犯罪なのでやめていただきたいんですけど
「できればやめたいけど。やっぱりつながりもあるので」
さらに別のリクルーターは、若者の間で「受け子」が広がっていると話します。
【リクルーター】
「最近は高校生と大学生が多いですね。(ツイッターとか?)ツイッターもあるし、高校生だと友達うちで(募集を)回したり。ちょっとした小遣い稼ぎっていう人が多いんですけど、もの運んでくれるなら全然問題ないので。」
■免許証を「人質」に…一度でも手を占めると「抜けられない」
取材を続ける中で、「受け子」を経験したことがあるという21歳の男に話を聞くことができました。
【元受け子】
「抜けられないですね、1回やったら。簡単に手に入るし。(刑務所)でてきてからもすぐやる人多いし」
1年ほど受け子を続けた後、足を洗ったという男。逮捕されるリスクがありながらも、なかなかやめられなかった大きな理由があるといいます。
【元受け子】
「免許とか最初だして身元を教えるんで上の人に。飛んだら怖いのもあるし」
確かにSNS上には、受け子をやめた若者や、現場に行かなかった若者の免許証や写真がさらされていました。一度手を染めたら、逃げられないようになっているのです。
甘い勧誘で惑わされてしまう「特殊詐欺」。その影は、大きなリスクとともに若者に忍び寄っています。