テーマは「空港の民営化」です。
主には赤字の空港の経営を民間のアイデアとかノウハウで改善することが狙いになるんですけれども、
関西・伊丹・神戸の3空港をはじめとして最近、全国で民営化された空港が増えています。
この春にも新たに3つの空港が民営化されます。
そのうちの一つが和歌山県南部の玄関口・南紀白浜空港です。
南紀白浜空港から飛んでいるのは東京・羽田とを結ぶ1日3往復だけです。
これまで毎年3億円ほどの赤字でした。運営を担う会社はあの手この手で経営を改善しようとしています。
<オペラのコンサート>
イタリアから訪れたアーティストによる、オペラのコンサート。
会場はなんと、「空港の格納庫」です。
ここは、和歌山県の南紀白浜空港。
普段は立ち入ることができない“特別な空間”でのひとときを、地元の人たちが存分に堪能しました。
【女性】
「とっても不思議な感じで。何か新鮮でした」
Q:普段よく空港に来ます?
【女性】
「来ないです。これからもどんどん色んなイベントで活用していただけたら。楽しみです」
企画したのは、この春から運営を担う南紀白浜エアポートの社長・岡田信一郎さん(47)です。
【南紀白浜エアポート・岡田信一郎社長】
「空港を地域の人に知ってもらいたいという気持ちがありましてね。
格納庫でのコンサートって、多分世界的に例がないと思うんですよね」
51年前に和歌山県の「空の玄関口」として開港した南紀白浜空港。
しかし現在は、1日3往復の東京・羽田便が飛ぶのみで、
飛行機が発着する時間帯以外、ターミナルビルはガラガラの状態。
収支は毎年3億円ほどの赤字です。
頭を悩ませていた和歌山県は、運営を民間に任せることにしました。
<民営化の契約締結式(去年7月)>
【和歌山県・仁坂知事】
「観光客がガバガバ来るというような。ものすごく立派な、活力のある空港にしてほしい」
和歌山県がこのまま運営を続けると、10年間で約30億円の赤字となりますが、
民間に運営を任せることで6億円ほどを節約できるというメリットがあります。
【岡田さん】
「お客さんをたくさん呼んできて、地域の活性化に頑張っていきたいと思います。
その大きな責任とチャレンジに、非常に身が引き締まる思いです」
【仁坂知事】
「(普段)あまり、報道陣が来なくて。きょうは岡田社長のネームバリューで」
実は岡田さんは、航空業界では「知る人ぞ知る人物」です。
日本を訪れる外国人観光客の増加によって、今や関西経済のけん引役ともなっている関西空港。
岡田さんは、その民営化を手掛けた、「経営再建のプロ」なのです。
【岡田さん】
「空港っていうのは固定費ビジネスで、お客さんがいようがいまいが一定のお金がかかってしまう。
空港をしっかり運営しつつ、新しい機能をやることで発展させるというコンセプトでやっています」
目標は、旅客の数を10年後には現在の倍の25万人、20年後に30万人とすることです。
一体どうやって“もうかる空港”にするのでしょうか?
まず目をつけたのが。
<戦略その① 空港を“地域の交通拠点”に>
この日、岡田さんが訪ねたのは、白浜町で唯一の路線バスを運営する会社です。
【岡田さん】
「この地域の旅行者呼ぶ時の課題って“移動”だと思うんですよね。
そこを地元の明光バスさんと協力して、新しい取り組みができればなと思って」
この会社は、白浜と東京や大阪などを結ぶ高速バスも運行していますが、空港には停まりません。
岡田さんは「高速バスが空港に停まるようになれば、飛行機が飛ばない時間帯にも、
空港で飲食や買い物をする人が増える」と考えているのです。
【明光バス・牧洋史社長】
「私どももこの地域の交通を担っている責任を果たしつつ新たなものもやっていかなきゃいけないなと思っています。
(空港が)ここに行けば何とかなるというターミナルになってくれることも期待しています」
バスだけではありません。
和歌山県は、約800キロのサイクリングロードを整備して、観光客の誘致に取り組んでいます。
岡田さんのアイデアで、空港にも自転車用のスタンドや更衣室を設置して、サイクリングの拠点にしました。
<戦略その② “恵まれた観光資源”を生かす>
空港を盛り上げるためには、周辺の観光地との協力も欠かせません。
白浜町には海水浴場や歴史ある温泉があります。
少し足を伸ばせば世界遺産の高野山や熊野古道など、魅力のある場所がたくさんあります。
ここは、田辺市にある熊野本宮大社。
岡田さんは去年12月、宮司から「ある相談」を持ちかけられました。
【熊野本宮大社・九鬼家隆宮司】
「海外の方が来られて、語学ができる職員も限られていますので、
思いが伝わらない時には近くの観光協会さんに急遽お願いして
電話でやり取りして頂いたりすることが時折あるんですが…」
相談の内容は「外国人参拝客に十分な案内が出来ていない」ということでした。
そこで岡田さんは、語学が堪能な社員を週末などに派遣して、通訳のお手伝いをすると提案しました。
【岡田さん】
「熊野古道にいらっしゃるお客様、本宮大社を訪問される方は空港にいらっしゃるので、
空港側としても熊野に対する造詣を深めていきたいし」
【九鬼宮司】
「是非ともこれが実現するように、お願いしたいと思います。本当にありがとうございます」
【岡田さん】
「より楽しい旅行体験、また来たいって思っていただくことが、結果としては地域の活性化というか交流人口を増やして
空港が発展するので。僕らが気付いたことは地域にも“こういうところは高めていきましょう”“改善していきましょう”と言いたいし。
一連の旅の流れを満足するものに演出していく。これはやっぱり大事なことだと思うんですよね」
「空港の魅力の向上」や「周辺の観光地との協力」などをベースにして取り組んでいるのが。
<戦略③ 新たなエアラインの誘致>
羽田空港から南紀白浜空港までは、飛行機で約1時間。
東京からのアクセスの良さや温暖な気候、オフィスの使用料が安いことなどを背景に、白浜町にはここ数年、
東京のIT企業などが次々に進出しています。
ビジネス客だけでなく、国際線を受け入れる準備も進めていて、2年後には新たなターミナルビルも完成します。
【岡田さん】
「我々の財布も小さいですし、色んなPRにかけるお金も限られています。そんな中で、地域の人と協力し合う。
それによって何か新しい価値を生み出していく。全国の地方空港は同じ悩みを抱えていると思います。
そういったところに夢と希望を与えられるような活動にできたらなと考えています」
「空港を拠点とした地方創生」。それこそが、南紀白浜空港民営化のキーワードです。