京都市の伏見区に、障害のある人や生活に困窮している人たちの受け入れ施設を作ることが決まりました。
こうした施設は、社会にとって必要なものではありますが、不安を感じる住民もいらっしゃるわけです。
にもかかわらず、説明会の開催が遅れたことで住民から不満が噴出しています。
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【京都市担当者】
「現時点で申し上げられることはここまでではございますが、何卒ご理解いただけますよう、宜しくお願い致します」
【住民男性】 「理解できません!」
【住民男性】 「理解できへんねん!」
【住民男性】 「京都市の掲げる社会福祉って何なんですか!共存共栄違うの!?」
【住民男性】
「非常に大きな不満と強く抗議をしたい」
【京都市担当者】
「事前に十分な説明がなかったとのご指摘かと思います。大変申し訳ございません」
1月13日、京都府向日市で開かれた住民説明会の様子です。
住民の不満、怒りが続出し、説明会は紛糾しました。
議題は、京都市伏見区に建設予定の救護施設です。
救護施設とは、生活保護法に基づいて障害者や生活困窮者が日常生活を送りながら、社会復帰することを目的としたものです。
なぜ向日市の住民が京都市や施設側と対立するのか。
取材を進めると主に3つの問題点が見えてきました。
この空き地が京都市が救護施設を造ろうとしている予定地です。
地図を見てみると…。
名神高速を境に主に東側が京都市伏見区で西側が向日市です。
建設予定地は向日市側に突き出た「飛び地」のような場所になっています。
【記者リポート】
「あちらに見えますのが、向日市立の小学校です。少し歩いてすぐ近くにあるところが、救護施設の建設予定地です」
向日市の小学校までは約270m。徒歩で約20分のところにある最寄り駅が阪急西向日駅です。
救護施設の入所者の主な生活圏は京都市伏見区ではなく、向日市になることが想定されます。
なぜわざわざこの場所に救護施設を造るのか。
取材班は施設側にこの場所を選んだ理由を尋ねました。
【社会福祉法人みなと寮 笹井信次事務局長】
「あえてそういう境界を認識して選んだわけじゃないんです」
【社会福祉法人みなと寮 木島初正施設長】
「たまたま建設可能な入手できる土地がそこしかなかったんです。向日市と伏見区の境で飛び地になっているのは後で分かった話」
向日市の住民がこの場所に施設が建設されることに対し怒る理由。
それは救護施設に入所する人たちに不安があるからです。
生活困窮者の中には、刑務所を出所しても身寄りがないという人やホームレスが含まれます。
現在、施設側は京都市下京区で救護施設よりも比較的軽い症状の人が入所する更生施設「京都市中央保護所」を運営しています。
ところが、中央保護所では火災があるなど、近隣住民から不安の声が出ているというのです。
向日市の住民側は安全対策を求めていますが、
去年11月23日に開かれた、施設側の説明に住民は納得できませんでした。
== 去年11月23日の説明会の音声データより ==
【住民男性の声】
「入所者が地域の住民、子供や老人に危害を加えない、その安心が取れればいいわけです」
【施設側の声】
「救護施設をとんでもない施設というイメージを持たれていると思うんです、決してそのような危ない人はいらっしゃいません」
【住民男性の声】
「いないって言いきりましたよ。そういう方はいらっしゃらないんですね」
【施設側の声】
「例えば万引きとか、そんなことはたまにはあったんですけども…」
施設側からの思わぬ回答に住民たちも困惑、説明会は紛糾…
【施設側の声】
「人に危害を加えるとか、子供さんにいたずらをするとか、そういうことはないんです」
【京都市担当者の声】
「着工は予定としては12月」
【住民男性の声】
「12月やろ?今何月や。決まったのいつや。なんで今までそれを言わへんかった。説明しなあかんでしょ」
【住民男性の声】「説明会が遅いやないか!」
【住民男性の声】「だまし討ちみたいなもんやで」
【住民男性の声】「場所の選定からやり直せ」
【住民男性の声】「それが行政のやり方か」
住民側は施設の建設に至る経緯についても疑問を持っています。
去年3月、京都市は救護施設を整備・運営する事業者の公募を開始しました。
そこに唯一応募したのが、中央保護所を運営している施設側でそのまま8月にすんなりと決定。
説明会が開かれたのは着工予定だった12月に入る、わずか1週間前だったのです。
さらに、土地の取得にも不可解な点があると住民側は指摘します。
施設側は公募の1年半前には、すでに土地を取得していたことから、
住民側はこの場所で建設することありきの「出来レース」だったのではないかと疑っているのです。
【みなと寮建設を考える向日市民協議会 共同代表】
「今回のみなと寮(施設側)を選定した京都市のプロセスが、私は不透明だと思っているのではっきりと説明を頂きたい」
【社会福祉法人みなと寮 木島初正施設長】
「京都市の色んな計画を見ると、(救護施設の)必要性を感じているようなものがあったので、
いずれ何年後になるか分からないけど、必ず京都市で救護施設をつくるだろうという思いがあったので、
とりあえず土地を先行取得。先行投資ということになりますけどね」
1月13日。
施設が建設される予定地のすぐ近くにある小学校で開かれた2回目の説明会。500人以上の住民が集まりました。
【住民男性】
「もう一回教えてほしいんですけどね、なぜあの場所なんでしょうか。適切ですか」
== 住民たちの拍手 ==
【住民男性】
「最寄り駅は西向日駅なんです。向日市なんです。あなたたちが地域共生とおっしゃるのであれば、
みなと寮さん(施設側)の所有の土地を使うということは、向日市に全部丸投げすると言うことなんです。思いません?」
【京都市担当者】
「一番距離的に近いのが西向日駅ということで、最寄りが西向日駅という形になると思いますが、例えば京都駅(徒歩約1時間40分)ですとか、長岡京駅(徒歩約35分)も行き先によっては最寄り駅と考えられるかなと思っています」
要領を得ない説明に終始する京都市。住民側からは質問を求める人が相次ぎ、説明会は長時間に及びました。
【社会福祉法人みなと寮 木島初正施設長】
「受け皿さえあればこの人たち(入所者)はちゃんと社会人として生活することができるんですよ」
【住民男性】
「万引き等はありますとおっしゃいましたよね。万引きは危害じゃないということですか。
なぜここに(資料に)書かれなかったのか教えてください」
【京都市担当者】
「まずはそういったことが起こらないようにしっかりと対応していくというのがもちろん大前提です」
【施設側担当者】
「外出が不適切な方については予防的に外出の制限を行うことは当然ございます」
そして、土地を巡る不可解な経緯についても質問が。
【住民男性】
「どうも話が出来すぎている。私たちとしてはそれに対して疑念を抱かざるを得ません。
いわゆる談合みたいなものがあったのではないでしょうか」
【住民男性】
「財産目録で羽束師の土地(建設予定地)が平成28年度(2016年度)から載っています。
初めに知り得たのは平成30年(2018年)3月じゃないのではないかと思うのですけど、いかがでしょうか」
【京都市担当者】
「法人はホームページで公開されているようですが、京都市はいつの時点でこれを提出を受けて確認したかについては、
現時点ではお伝えすることは出来ません」
住民からの質問に対する明確な答えはないまま、終盤を迎えました。
【住民男性】
「日常の運動や散歩はどう行われるのですか。そういったことを知りたいんです。
そういうことをきちんと面倒くさがらずに説明して頂かなければ我々が今抱えている不安は決して拭い去ることは出来ない」
【住民男性】
「個人個人が電話をしたって、正直その時でうまく対応されて工事が進んでしまうのではないかと不安でなりません。
京都市にお願いしたいです。どうしても、こういう場でみんなが拍手の中で『造ったらいいじゃないか』と言ってからでないと
建設しませんと言ってほしいです」
【みなと寮建設を考える向日市民協議会 共同代表】
「きっちりとオフィシャルな場所での質疑応答を受けてもらえる場を持つということをお約束頂きたい。
おそらくここにいらっしゃる方みなさんそう思っています。お願いします」
【住民男性】
「もう一度この場を開いてほしい方、挙手してください」
(住民の多数が挙手するが…)
【京都市担当者】
「いつということではなくさせて頂きたいと思っています」
【住民男性】
「思いますじゃないやろ」
【みなと寮建設を考える向日市民協議会 共同代表】
「するって言って」
【説明会に出席した住民男性】
「うまいこと丸め込むような説明のしかたばっかりで」
【説明会に出席した住民男性】
「疑問が発生して、そのキャッチボールがあって初めて相互理解というところにたどり着くと思うんですけど、
その理解の場を設けて下さいという所でプツッと切られてしまうと、どうやって理解を得るのか」
【みなと寮建設を考える向日市民協議会 共同代表】
「現時点では京都市への信頼は揺らいでいますけど、きっちりと説明を頂けるように期待して。
我々としてもわかっていない。救護施設に対して。知見を深めていくような形にはしていかなければいけないなと思いました」
結局、質問を出来たのは、500人以上の参加者の中で14人だけ。
説明を尽くさず、住民を無視して強行するという事態だけは避けなければなりません。