世界遺産の数が全国1位の奈良 海外の若手専門家が『木造建造物の保存と修復』を学ぶ 無形文化遺産に登録される「日本の優れた技術」 2023年12月28日
2023年12月、日本で法隆寺などが世界遺産に登録されてから、ちょうど30年がたちました。
世界の若者たちに向けて、貴重な文化財を保護する取り組みが奈良で始まっています。
■世界の若手専門家15人が奈良で学ぶ
30年前、日本で初めて世界遺産に登録された「法隆寺地域の仏教建造物」。
奈良には他にも、東大寺などの「古都奈良の文化財」と、「紀伊山地の霊場と参詣道」という世界遺産があり、全国で1位の数を誇っています。
形があるものだけでなく、世界的に認められている、日本の“木造建造物を修復する技術”はユネスコの無形文化遺産にも登録されるほど。
世界でも文化財を保護する動きは進んでいますが、修復を行う職人の数や技術が不足しているなど、課題もあります。
そこで、多くの文化財が残る奈良で“木造建造物の保存と修復”を学んでもらおうと、アジア太平洋地域の14カ国から、文化財保護を手がける、15人の若手専門家が集められました。
彼らがまず訪れたのは東大寺です。
【和歌山県文化財センター 多井忠嗣さん】「この壁は外側に解体番付が記されていた壁」
【アリウンザヤ・バトドルジさん】「壁に金箔を使うのはどんな意味があるんですか?」
【多井さん】「この空間を荘厳化するためですね」
熱心に話を聞いているのは、モンゴルから来たアリウンザヤ・バトドルジさん(26歳)です。3年前まで京都に留学して、“建築遺産”について学んでいたアリウンザヤさんは、モンゴルでは国立文化遺産センターで製図技師として働いています。
【アリウンザヤ・バトドルジさん】「木造は石と違って長い間保つのは大変。保存再生の技術がすごく優れていると思いました」
続いてやってきたのは、奈良県田原本町。1700年代に建てられた神社が台風で傷んでしまったため、修復作業が行われています。
【奈良県文化財保存事務所 大野裕典さん】「昔打っていた釘跡も出てくることがあります。上に乗っていた部材が今までに何回取り換えを受けているのか、修理履歴も確認しながら解体を進めていきます」
解体する時の振動ではがれたり、運ぶ時に汚れたりしないよう、色のついた面に薄い紙を貼るという工夫も。日本の丁寧な修復技術を直接学べる、貴重な機会となりました。
■初めてのかんな削りを体験
またある日、彼らは木材を滑らかにするのに欠かせない「かんな削り」を体験することに。
【なら歴史芸術文化村 担当者】「歯を直接たたいて、すると歯が出ていきます。歯を出す時には、こっちから見ながらたたいていく」
専門家が説明しながら木材の上でかんなを滑らせる様子を、15人がそれぞれ真剣な表情で見つめています。
【なら歴史芸術文化村 担当者】「これでもちょっと厚いです」
薄く削り取った木材のくずを見て、「(これで)まだ厚い!?」と驚く一同。
【なら歴史芸術文化村 担当者】「もうちょっと出しましょうか」
【アリウンザヤ・バトドルジさん】「ああ、見える。見えます」
アリウンザヤさんもかんなを持ち、専門家に習いながら微調整を繰り返します。しかし、なかなかうまくいきません。苦戦の末にようやく成功し、うれしそうな笑顔を見せたアリウンザヤさん。
【アリウンザヤさん】「いろいろな視点から、いろいろなアプローチでこうやって詳しくやっているのは素晴らしいですね。いろいろな国があって、いろいろな文化を持っている。(国や文化は)違いますが、私たちに共有している唯一のものがあります。それは文化遺産(の専門家)ということで、『ああ、私は一人じゃないな』という気持ちを持って非常にうれしいです」
文化遺産を未来につなげ、引き継いでいく。仲間を得た15人の若き専門家たちは、それぞれの国で貴重な文化財を修復し、守っていきます。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月28日放送)