低賃金が社会問題となっている介護業界。政府は賃上げの施策に乗り出してはいますが、根本的な解決には至っていません。
深夜でも要請があれば駆け付ける訪問介護の現場を取材すると、やりがいはあっても報われない現実が見えてきました。
■深夜の訪問に感謝の声 しかし低賃金の問題も
京都市南区にある「ナイトケアセンター南」という施設。ナイトケアとは、「夜間対応型訪問介護」と呼ばれるサービスです。
転倒して起き上がれない、排せつの失敗といった緊急の要請が入ると、深夜でもすぐにヘルパーが駆け付けます。対応するのは、午後6時から翌日の午前8時までで、要介護認定を受けていれば、誰でも利用できます。
【ナイトケアセンター南 統括責任者 藤本了さん】「特に夜間は、他のサービスもあまり提供されていない中で、生活の一部の支えになっているんじゃないかなという自負はあります」
現場を支えるヘルパーの大辻隆司さん(46歳)は、介護福祉士の資格を持ち、夜間の勤務を専門としています。もともと接客業をしていましたが、体調を崩して退職。妻が過去にヘルパーをしていたことから、この仕事に興味を持ったといいます。
【ナイトケアセンター南 大辻隆司さん】「利用者さんの『ありがとう』っていう笑顔は、やりがいにつながっています」
そう話した大辻さんが午後9時頃に訪れたのは、夜間の訪問介護を毎日利用している80代の夫婦の自宅です。82歳の夫は脳梗塞の影響で左半身にまひがあり、81歳の妻が世話をしています。
【妻(81歳)】「もう私はバテてきているし、つらいし。ナイトさんやヘルパーさんに本当に助けてもらって、ここまでがんばってきました」
日中はデイサービスを利用していますが、夜間は夫婦2人きり。ヘルパーによるおむつの交換や、トイレへの誘導などが欠かせません。
Q.夜にヘルパーが来てくれるのは助かりますか?
【夫(82歳)】「助かる。家内が助かってるやん」
利用者の感謝の言葉がやりがいにつながるといっても、それだけではどうしようもできない問題もあります。
ヘルパーなどの介護職員の給与は、他の産業と比べて低い状態が続いていて、2022年の平均月収はおよそ29万円と、全産業の平均より7万円ほど低くなっています。
介護職員の給与は、国が定めている介護報酬から支払われる仕組みになっているため、事業者が賃上げを行おうにも、国が介護報酬を上げない限り難しいのが実情です。
【大辻さん】「社会はどんどん値上がりしていくのに、収入が上がらないので、なかなか厳しいかなと。やりがいはあるんですけど、僕らの生活もあるんで、(収入は)多いに越したことはないです」
■離職者が入職者を上回る“離職超過”
午前2時前、施設の電話が鳴りました。
【オペレーター】「転んだんですか?分かりました。介護員がすぐ向かいますので、少しお待ちください」
転倒したのは70代の1人暮らしの男性で、車いす生活です。安全のため、ヘルパー2人で訪問します。
【大辻さん】「車いすでトイレに行かれて、トイレで転倒されて。1時間かけてナイト(ケア)の通報ボタンを押すところまで、(廊下を)はって戻ってこられて。ようやく通報されたという(状況)」
午前2時半。50代、60代の仲間のヘルパーたちが仮眠をとる中、大辻さんは報告書を書く作業が続きます。46歳の大辻さんは、実はこの中で最年少です。
【大辻さん】「(報告書を)書いている本人も、これだけ夜遅くなってくると、思考が回らへん」
午前3時にようやく大辻さんも仮眠をとります。そして午前8時、この日の勤務がようやく終わりました。
ナイトケアセンターを運営する「京都福祉サービス協会」の塩澤理事は、過酷な重労働や賃金が低いことで仕事を辞める人が相次いでいると話します。
【京都福祉サービス協会 塩澤宏理事】「現場を支えている職員が退職してしまう。法人としても必要としているのだけども、なかなか引き止められるものが(ない)。いくら必要としているといってもね。いろんな業種と比較した時に、手当とか待遇面でいくと他を選択されてしまうこともありますね」
そんな介護業界では、退職した人が新たに就職した人の数を上回る“離職超過”が起きています。
この状況に、政府も対策に出ています。2024年2月から月6000円の賃上げ、さらに来年度から介護報酬を1.59%増やすことでも賃上げを目指しています。しかし、これだけでは他業種との収入の差は埋まりません。また、介護報酬が上がると介護保険料が上がることにもつながり、今度は現役世代の負担になってしまうという面もあります。
介護職員のやりがいや使命感に頼ってしまっている現状。抜本的な制度改革が求められています。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月26日放送)