放課後デイ施設で中学生が死亡した事故 業過致死容疑で代表ら再逮捕 2人必要な「送迎スタッフ」1人しか配置せず 増加するデイ施設に『制度が追い付いていない』と専門家 2023年12月15日
1年前、放課後等デイサービス施設に通っていた男子中学生が送迎中に走りだし、その後死亡した事故に新展開です。
警察は12月12日、施設の代表らを業務上過失致死の疑いで再逮捕しました。
なぜ事故は防げなかったのか。元職員への取材で、施設のずさんな管理体制が見えてきました。
■事故から1年「気持ちは何も変わらないまま」
清水亜佳里さんは、2022年12月9日、息子の悠生(はるき)さんを亡くしました。
【母・清水亜佳里さん】「本当にこの(逮捕の)一報を聞いて、良かったという気持ちと、子供に対して“逮捕された”と、“ごめんね”という気持ちを伝えたいと思います。気持ちとしてはあの日のまま、何も変わらないまま毎日が過ぎていきました。季節は進んでいるのに、あの子が帰って来ない毎日がつらくて、つらくて」
通っていた放課後等デイサービス施設で、送迎の際に悠生さんが職員の手を振りほどいて走りだし、行方不明になりました。その後、川の中から遺体で見つかったのです。
3歳の時に発達障害の一つである自閉症と診断された悠生さん。自分の思いを言葉で伝えるのは苦手でしたが、父が手作りしたカードでやりとりができるようになり、成長の兆しが見え始めたところでした。
【母・清水亜佳里さん】「最近は簡単な言葉は分かってくれていて、ようやくやりとりをできるようになって、あの子も甘えるようになった。そこまで来るのにすごく苦労だったのに、命が消えてなくなったというのが悔しくて悲しい」
【父・清水悠路さん】「仕事行く前に『パパ行ってくるね、ばいばい、タッチ』ってやっていたんです。その日も普通にばいばいタッチして、まさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかった」
両親が無念を抱えたまま、1年。ようやく今年12月12日、施設の運営会社代表・宇津慎史容疑者と兄の雅美容疑者が、業務上過失致死の疑いで逮捕されました。
取材を進めると、障害者の支援に携わっているとは思えない発言の数々が明らかに。
【元職員】「(施設の対象を)障害者にするか、老人にするか考えたら『老人は臭いから、障害者のほうがマシやから、障害者施設にした』と宇津雅美(容疑者)が言っていた」
なぜ事故が起きるまで、施設のずさんさは表に出なかったのでしょうか。
■暴力を何度も目撃したと元職員
吹田市から指定を受けて運営する放課後等デイサービス施設「アルプスの森」。障害のある子どもたちが学校の後に通います。
去年、利用していた中学1年生の清水悠生さんが亡くなった事故で、12月12日、運営会社の代表・宇津慎史容疑者ら2人が、業務上過失致死の疑いで逮捕されました。宇津容疑者らは11月、施設内で当時15歳の少年に頭突きするなどの暴行を加えた疑いでも逮捕されています。
施設の元職員を取材したところ、暴力を何度も目撃したといいます。
【元職員・Aさん】「プロレスごっこみたいなことをして痛い技をかけていた。痛そうにしていて、離さへんみたいな感じでやっていたんですよ。多分(暴力は)常態化していたんじゃないですかね」
去年までアルプスの森で働いていたAさん。暴力は常態化していた可能性があると証言しました。そして、誰もとがめなかったといいます。
【元職員・Aさん】「あまりちゃんと歩けない子で、よつんばいで歩いている時に足を引っ張ったりとか。(足を)右にやったり左にやったりして、嫌がるから逃げるんですけど、何回もやっているから、しゃべれない子だから『ふん!』って言って怒っていたんですね。(他の職員は)“あほや”って言って笑っていて、笑いごと?と思って」
Aさんは耐えきれずに退職。その後、悠生さんの事故が起きてしまいました。
■支援時のルールが守られなかった末の事故
事故が起きた原因は何だったのか。
悠生さんの支援について定めた個別支援計画書や、職員会議の資料があります。悠生さんは衝動的に動くことがあったため、施設とはその特性を共有し、送迎の際には2人の職員で対応すると決めていました。
【支援計画書作成に関する会議資料】「送迎はどんな時も必ず電話をして、他のスタッフの助けを仰ぐ。以上のことを守らないと命に関わることになる」
しかし、事故当日は職員1人で対応していたことが判明しました。車を降りてから建物の入り口まで、わずか4メートル。その短い距離の間で、事故が起きてしまったのです。
【母・清水亜佳里さん】「6年間ずっと予測してきたことで、そのための対策が2人(での対応)だったのに、結局それがずさんに何回も1人でされて、たったの短いあの距離で、子どもの命を失ってしまった」
さらに、悠生さん以外にも行方不明になった利用者がいたことが分かりました。宇津容疑者が同じ建物で運営していた18歳以上の障害のある人が通う施設でも、何度も行方不明になる利用者がいたのです。
【元職員】「送迎の車に乗せるときに(出て)行っちゃった。いつもならついていって助手席に乗る子やけど、違う方向に行ったらしくて。(飛び出しは)何回かあったらしい。私がいたときは1回だけやったんですけど、『こいつ何回もやってるねん』って(他の職員が)言っていて」
逃げ出した利用者は近くの飲食店で見つかりましたが、その後、飛び出しを防ぐために新たな対策が取られることはありませんでした。
■支援内容の計画書は職員に共有されず
そして、他にも大きな問題がありました。
Q.支援計画書を見たことは?
【元職員】「ないです。“(利用者を)見たら分かるやろ”って言われるんですけど、分からない子もいるんですよ。口頭で言われるだけで、自分でメモを取って」
施設に作成が義務付けられ、支援内容を定める計画書が職員と共有されていなかったのです。子どもたちの支援に必要な計画書の意義とは。
大阪市東住吉区にある放課後等デイサービス施設「すたぁりっと」。この施設では、半年に1回支援計画書を作成しますが、その前には保護者との面談を必ず行い、施設で達成する目標や支援内容を決めます。
【すたぁりっと 中筋翔大さん】「支援計画書は支援において根幹にあるものという認識です。これがないとどういう風にその子を、半年後、1年後、2年後…どういう成長過程を踏ませたいのか見えないので、これを明確に定めないと的確な支援はできないかなと思います」
Q.支援計画書を見ない職員がいるのはあり得ますか?
【すたぁりっと 中筋翔大さん】「あり得ないですね。毎日開けるファイルに明記されているので」
支援計画書に基づかないと、適切な支援はできないといいます。しかし、「すたぁりっと」の運営会社の代表・家住教志さんは、「今の仕組みでは質の高い施設が増えるのは難しい」と話します。
【株式会社シーアイ・パートナーズ 家住教志代表取締役】「すごく支援に集中して、いろいろな勉強をしたり、専門の人たちを入れていくと、経費ってどんどん上がっていきますよね。なので、本来この業界はそんなにもうけが出るものではないんですよ。そこそこ払えて、そこそこ回せるようにしか設計されていないので。なので、そこで利益を取ろうとすると、どうしても(支援内容を)薄くするしかないんですよね」
施設によって支援内容にばらつきが生まれる現状。行政は施設の運営状況を確認する「実地指導」を行いますが、家住さんによると、資料を確認するだけにとどまるといいます。この状況を改善するには、施設に指定を出す行政が、適切なサービスが提供されているか、支援内容なども現地で確認すべきと指摘します。
【株式会社シーアイ・パートナーズ 家住教志代表取締役】「利用する方々に正しいサービスができているかというのは、紙では見えない。紙だけで判断することじゃなくて、本当に具体性のあるものを見に行くことが必要。指定を出す側が、本当にこの施設は必要かというのを、ちゃんと規制をしながら中身をみて、プログラムを見て、これだったらこの地域に絶対に必要だと判断をして、指定を出すのがあるべき姿」
しかし、吹田市は「アルプスの森」に対し、その実地指導さえも新型コロナを理由に一度も行っておらず、施設が作成した書類は不備だらけ。支援計画書は3年間作成されておらず、中には、悠生さんの両親がサインした記憶のない個別支援計画書や身体拘束の同意書もあったといいます。
【父・清水悠路さん】「今までだまされていたんだなという、その気持ちがすごく強かったです」
悠生さんが亡くなった日から1年を迎えた12月9日。1周忌の法要には、友達や学校の先生などが参列しました。
【父・清水悠路さん】「結局この1年間、アルプスの森の職員は1回も悠生くんには(会いに)来ていないんです。私たちのところに謝罪は一回もなかった。それに対して憤りを感じていますが、悠生君が争うのが嫌いな子だったので、今日はアルプスへの怒りを抑えて、せっかく悠生くんに友達が会いに来てくれるところなので、怒りを忘れて悠生くんを迎え入れようと思います」
【母・清水亜佳里さん】「同じように(放課後デイで)子供が亡くなることが二度と起こらないように、真実を明かしてほしいです。悠生の事故のことを皆さんに覚えていてもらえたら、そして考えてもらえたら、ありがたいです」
なぜ悠生さんの命は守られなかったのか。安心して子供を送り出せる施設であるために、何が必要なのでしょうか。
■需要が増加する一方、追いつかない制度作り
施設内へ子どもを誘導する際の手順などについて定めた送迎マニュアルは、悠生さんの事故が起きた後に作成されたことが、警察の調べで明らかになりました。しかし、従業員らは「(送迎マニュアルは)事故発生前に見せられた」と供述するなど、もともと存在していたかのように装っていたといいます。
現在、放課後等デイサービスの施設は増加の一途をたどっています。2012年に制度ができてから、施設に通う子供の数は年々増加。今では利用者は30万人を超え、事業所の数も1万9000カ所にのぼっています。しかし、「制度開始時の想定よりも数は増加していて、制度が追い付いていない」と指摘する専門家もいます。
需要と共に施設数も増加しているからこそ、施設の安全対策や支援内容、報酬の出し方など、抜本的に見直す必要がありそうです。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月12日放送)