視聴者から届いた身近な疑問について、関西テレビ「newsランナー」が取材する「取材依頼届きました」。
今回依頼をくれた大阪市内在住の由佳さん(仮名・32歳)は、現在妊娠6カ月で、初めての出産に向けて一つ気がかりなことがあるそうです。
■妊婦を病院まで送り届ける「陣痛タクシー」
妊娠中の由佳さんの気がかりとは何なのでしょうか。
【由佳さん】「友達に、出産の時どうしたの?みたいに聞いて、“陣痛タクシーもあるよ”と言われて、初めて聞いたので検索してみたら、あまり(陣痛タクシーの会社が)なかったんです」
由佳さんが知ったのは、妊婦のための「陣痛タクシー」。陣痛や破水が起きた時に研修を受けたタクシードライバーが駆け付けて、妊婦を病院まで送り届けるサービスです。一般的に、住所や病院をあらかじめ登録しておくため、緊急時でも対応がスムーズで、防水シーツなども備えてあります。
実際に登録した人たちの声を聞いてみました。
【利用した人】「(Q.どこで使いましたか?)住んでいたのが東京の新宿区だったので、そっちで使いました。当日、ちょっと私は意識があまり…記憶がないんですけど、電話番号の書いてある紙を旦那に渡して問い合わせてもらって、結構すぐに10分以内ぐらいに来てもらったので」
【登録したが利用しなかった人】「登録はしていたと思うんですけど、実際は使ってなくて、里帰り出産だった。僕が仕事とかでいない時に急に(陣痛が)来た時とかに使えたらいいなということで(登録だけしていた)。すごくありがたい」
■約86%がサービスを認知 しかし使えるのは一部地域
妊娠や出産の経験がある女性を対象に行ったアンケートでは、約86%の人が「陣痛タクシーを知っている」と答えている一方、大阪市内で陣痛タクシーを導入しているのは3社のみ。対象地域も中央区や北区など、6区にとどまっています。妊婦にとって安心できるサービスなのに、「使える地域と使えない地域があるのはなぜ?」という疑問が、今回の取材依頼につながりました。
そこで、大阪市内で陣痛タクシーを展開している「日本タクシー」に、このサービスの課題について聞いてみました。
【日本タクシー 営業部 高嶋明彦さん】「駐車違反とかの対応ができないのでね」
Q.駐車禁止で取り締まりを受けるのは大きなこと?
「大きいですよ。(ドライバー)本人だけじゃなくて、会社にもペナルティーが来ますからね」
陣痛タクシーには「駐車違反」のリスクがつきまとうということです。配車依頼を受けたドライバーが、路上にタクシーをとめて妊婦をサポートする際、車を離れると、警察に駐車禁止違反で取り締まりを受ける恐れがあります。違反の件数が重なると、会社にもドライバーにも大きなペナルティーとなります。
日本タクシーはこの課題をどうクリアしたのか尋ねたところ、駐車禁止が免除される臨時の「許可証」があるとのこと。旭区内の妊婦から配車依頼を受けた時点で旭警察署に連絡をすると、その場で許可証が発行されるという“陣痛タクシー専用”の仕組みです。
日本タクシーでは8年前に陣痛タクシーを始めた時、旭区役所と「業務提携」を結んだことで、警察の協力も得られているのです。さらに、区役所主催で年に一度、助産師によるドライバーへの講習会も行っていて、ドライバーの意識も高く保っています。
【日本タクシー 高嶋明彦さん】「どうしても研修させないとダメとか、独自でやろうと思ったら難しいと思います。万が一、(車内で)出産された場合は、冷やさないようにバスタオルとかで温めてあげて、出産時間を記録しなさいというような、最低限のことは(学んでいる)」
サービス開始から8年間で約2800件の登録があり、延べ800人の妊婦を病院へ送り届けました。
“官民連携”の成功例といえそうですが、これについて旭区役所はどのように考えているのでしょうか。
【旭区役所 保健子育て課 戸田裕之課長】「旭区にお住まいの妊婦さんが、安心して出産していただけるということを目的にこの事業をさせていただいていますので、そこがキモだと思っています」
陣痛タクシーへの行政の支援は進んでいるか、旭区を除いた市内23区に尋ねたところ、此花区だけが検討中で、それ以外の区は考えていないとのことでした。同じ大阪市内でも、他の区には広がらないのです。
日本タクシーでは、「営業エリアであれば、事前の登録はできなくても対応はできるので、相談してみてほしい」と呼びかけています。
【日本タクシー 高嶋明彦さん】「一応(ドライバーは)全員、研修を受けていますし、破水した時のための防水シーツも車に積んでいますから、(妊娠していると)言っていただければ対応できるようになっています」
多くのタクシー会社が陣痛タクシーに参入しない理由は、先に触れた駐車禁止違反のリスクだけではありません。ドライバーの理解不足の他、ドライバー不足で24時間体制が取れないことや、サービスの定義がないことによるクレームのリスクなどがあるということです。
課題はいくつもありますが、妊婦が安心して出産を迎えるための“お守り”になりうる陣痛タクシー。今後さらに広がっていくことが期待されています。
(関西テレビ「newsランナー」2023年12月11日放送)