■猛攻!万博めぐる国会論戦
2025年開催の大阪・関西万博の会場建設費が、当初の約1250億円から2350億円に増額された。国会では本格的な論戦がスタートし、11月8日の衆院内閣委員会では、立憲民主党が担当大臣を徹底追及した。
立憲・中谷一馬衆院議員:
「大規模なリング。1周2kmあるそうだが、これに350億円かかる。そもそも何で必要なのか。国民の皆さんがこうした負担をしてまで、巨大木造リングを設置することが必要だと思われているのか」
自見英子万博相:
「大屋根のリングは『多様でありながら1つ』という万博の理念を示す大きなシンボル。リングの上部をCLT材(集成材の一種)に置き換えるなどの合理化を実施した。夏の暑い時期に開催されるので、日よけの熱中症対策としての大きな役割も果たしている」
立憲・中谷議員:
「日よけに350億円。国民の皆さんが求めているとお考えか。(閉幕後は)これ壊すんですよね?」
立憲は万博の開催そのものには賛成してきたが、建設費の増額には反対である。臨時国会で閣僚を連日問い詰める裏には、実は別の思惑もあるようだ。
■すんなり了承「2350億円」
会場建設費について、政府は11月2日、最大2350億円に増額するという日本国際博覧会協会の“精査結果”を了承した。
大阪府の吉村洋文知事も、協会職員を呼んで公開質問もしたが、「人件費の高騰の部分で、500億円の増額もやむを得ない」と受け入れを表明。関西経済4団体も容認した。
会場建設費は、誘致時は約1250億円とされたが、2020年にリング状の大屋根の設計変更などで1850億円に増加。そして今回2350億円となり、当初計画から1.88倍に膨れ上がった。建設費は、国・大阪府市・経済界で3等分して負担する。
■立憲は「猛勉強」…標的は維新
臨時国会では、立憲がこれに噛みついた。衆院の代表質問で吉田晴美議員は、冒頭で万博問題に触れ、「身を切る改革どころではない。このまま税金投入が続けば天井知らずの無駄遣いになる」と、岸田文雄首相に詰め寄った。
うん?“身を切る改革”?…この言葉は政府でなく、日本維新の会のキャッチフレーズである。ということは、立憲の質問は岸田首相ではなく維新への当てこすりのようだ。
立憲と維新は今春まで国会で連携してきたが、この代表質問は、「野党第一党を目指す」と立憲に“宣戦布告”してきた維新のウィークポイントを突いた形だ。立憲のある議員は、FNNの取材にこう語っている。
立憲・国会対策担当の衆院議員:
「維新への“挑戦状”だ。注目してほしい」
日付はさかのぼって9月5日。立憲は関係省庁の担当者を招いて万博に関するヒアリングを行っている。ただ、既に大阪では報道されている話を聞くだけの内容で、この時点で立憲議員らの万博に関する基礎知識は乏しいと感じた。
それから2カ月ほど経った臨時国会での参院予算委。ヒアリングで“部門長”を務めた杉尾秀哉議員は、自見万博相から「関連経費の算出は困難」という答弁を引き出した。万博開催には、目玉とされた“空飛ぶ車”の事業や、地下鉄・空港のインフラ整備など間接的な経費もかかるが、万博のためだけではない経費は“別腹”なので、全貌は分からない。杉尾氏は猛勉強をしたそうで、的確な追及だった。
では、攻め込まれた維新は、どう応戦したのだろうか。
■「日本万博だ」距離を取る維新
かつて維新は“大阪の成長の起爆剤”として、万博を党のアピール材料に使ってきたが、大阪府知事・市長のダブル選後の今年5月頃から、建設の遅れが表面化。維新・馬場伸幸代表は8月、党内の会議で「万博は国の行事。大阪の責任とかそういうことではなしに、国を挙げてやっていく」と発言した。
「万博は国の事業」…確かにその通りである。都市が開催するオリンピックとは違う。一方で、開催主体となる博覧会協会は、政府・大阪府市・財界が人を出し合って組織されていて、維新共同代表の吉村知事は、無報酬ながら協会の副会長である。
それだけに国会では、当事者が率いる維新ならではの鋭い指摘があるかと思いきや、代表質問での言及はゼロ。予算委では、ライドシェア推進に絡めた質問や、機運醸成の取り組みを問うだけだった。
維新は立憲について、「いても日本は良くならない」「叩きつぶす」と攻め立てていたが、立憲の“万博攻撃”には、明確な反論ができていないのが現状だ。維新幹部は取材にこう語る。
維新幹部:
「逃げているつもりはない。万博は“日本万博”だ。政府にしっかり盛り上げてもらう必要がある」
とは言うものの、いつも万博のシャツやジャケットを着ていた吉村知事も、着る頻度が減ってきた。維新は今、万博と「距離を取っている」ように見える。会見で尋ねると、維新の藤田幹事長はこう答えた。
維新・藤田文武幹事長:
「それは全くの誤解で、むしろ逆。吉村さんや横山(大阪市長)さんは、毎日のように万博関連のことも発信しようとしているし、万博関連のスケジュールが相当詰まっていて、いろんなイベントに顔を出されている。PRをむしろここからアップさせていかないといけない」
“増額”で冷や水を浴びせられた格好だが、本来なら今が、PRを増やす「大事な時期」のはずだった。
■「機運醸成」より「信頼回復」を
“機運醸成”とはお役所言葉だが、要するに「盛り上がりをつくる」という意味だ。博覧会協会の「機運醸成行動計画」によると、今年10~12月は「PR重点期間①」なのだという。11月末でちょうど開幕500日前となるからだ。
本来はこのタイミングで、万博に関する“関心ゼロ”を“プラス”へと転じさせるはずだったが、建設費の増額で、国民感情が冷めた“マイナス”からのスタートとなってしまった。ただ、この状況を博覧会協会幹部は、どうにか前向きに捉えようとしていた。
博覧会協会幹部:
「今回の一連の報道のおかげで、全国津々浦々、万博が話題になることが増えたと聞く。次に明るい話が流れたら、イメージが変わるといいなと思っている」
国民がこぞって開催を喜び、大勢の人が訪れ、未来への夢を抱くような万博。それは本当に実現できるのだろうか。野党の暗闘により課題が浮き彫りになった中、開催まで残された時間は500日余りしかない。
【関西テレビ報道局東京駐在 鈴木祐輔】