10月23日、所信表明を行った岸田首相。「増税メガネ」と呼ばれることを気にしているようです。そんな中で、期間限定の所得税減税を検討するように指示したということです。“所得税減税”を期待する街の声もありますが、果たして“物価高対策”になるのでしょうか。経済ジャーナリストの荻原博子さんに聞きました。
岸田首相の所信表明演説の中では、具体的な所得税減税の内容がなかったことについて、「newsランナー」コメンテーターで共同通信社編集委員の太田昌克さんは官邸幹部を取材した話として次のようにコメントしました。
【共同通信社編集委員 太田昌克さん】
「番組出演の前に電話で官邸幹部に、『どうして所得税減税が入っていないのですか』と聞きましたら、『当然そういう質問が来ると思っていました』と言うんです。自民党内でいろんな議論がまだあるということで、中には『所得税ではなくて消費税だ』と言っている自民党の重鎮もいるんです。まず岸田首相は自民党の税制調査会に具体論を議論するよう、金曜日に指示しているわけです。取材した官邸幹部が私に言うのは、『税というのは民主主義の根幹であると。短期的な観点からだけではなく、中長期的な国家運営の観点から慎重に考えていかなくてはいけない』と言います。したがって今日の段階では、とても具体論を話せるような状況ではないし、下手に減税を言って憶測を呼ぶような演説、メッセージを出すことを避けたと説明していました」
■「所得税」は「消費税」に次いで大きな割合を占める税
そもそも今回減税が検討されている「所得税」について整理します。
所得税とは、個人の所得にかかる税金です。年収から、所得控除を差し引いた「所得」に対し税率が課税されます。サラリーマンの方なら、給与明細にも記載されています。 税率は所得控除を差し引いた「所得」に応じて変わります。
・195万円以下なら所得税率5%
・195万円から330万円以下なら10%
…
・1800万円から4000万円以下なら40%
などとなります。 国の税収の中で、所得税の占める割合はどうなっているのでしょうか?
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「今、一番の税収が大きいのが消費税です。消費税の次に大きいのが、所得税です。税収が多い時と少ない時はものすごく振れ幅がありますが、所得税が消費税を超えることはありません。所得税は、まあ結構みんな取られているということです」
「期間限定の所得税の減税」について、関西テレビ「newsランナー」視聴者にLINEでアンケートを取ったところ、賛成20パーセント、反対80パーセントで、反対が多い結果になりました。
理由としては…
▼賛成意見 ・物価高で購買力が減った、減税してくれると助かる ・納得できる減税であれば、政府を信頼できる
▼反対意見 ・選挙対策としか思えない ・減税よりも給付にして。物価高 に対応できない
あと期間限定であるということに対して反対だという意見も多くありました。
所得税を減税する方法は大きく2つ考えられます。
・「定額減税」年収に関係なく、同じ額を所得税から差し引くもの
・「定率減税」税額から一定割合を差し引くというもの
荻原さんによると、
・「定額減税」は、全ての世帯が恩恵を受けられる
・「定率減税」は、高所得者が有利になる
といった特徴があるということです。こうみると定額減税の方が公平なのでしょうか?
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「“定額減税”は金額が同じという意味では公平だと思います。“定率減税”は所得税で払っている税率が皆さん違うので、率が高い人の方が恩恵を受けやすくなるもので、収入の少ない人の方が恩恵を受けにくくなるという側面があります」
■所得税減税2つの懸念 荻原博子さんが指摘
“所得税減税”について、荻原さんは2つの懸念があるということです。
1つ目は、「減税までに時間がかかる」ことだと言います。
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「これから指示して、検討して、国会に上げて法律を変えて、とやらなきゃいけないので、本当に1年ぐらいはかかるような感じですよね。今すぐやってほしいという方が多いので、すごく時間がかかるというのはネックですよね」
2つ目は、「期間限定の減税は効果がない」と言います。
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「期間にもよるんですが、鈴木財務大臣は『1年ぐらい』と言っています。今物価がどんどん上がって、収入がそれほど上がらないのですごく苦しんでいるんですが、『1年』というと、所得税減税でいうと1回なので、1回減税してもらってもなかなかその効果は感じられません。3年、4年とやってもらえると、『お金使えるね』という気持ちになると思いますが、1年ぐらいではそういう気持ちになれないんじゃないかと思いますね」
■税収増えたというが、実は歳出がもっと増えている
【関西テレビ 神崎報道デスク】
「今回、岸田首相は予定していた税収よりも増えた分を還元するという話をしていたんです。実は国の財布全体、税収と歳出のバランスを見ますと、2022年度の税収が71.1兆円に増えましたよって言うんですけど、歳出は139.2兆円もあるんです。歳出のほうがかなり多く、この分は赤字国債などで穴埋めして、“借金漬け”なんです。税収が増えた分は赤字国債の返済にあてるのが当たり前なんですけど、それだと国民の支持率が上がらないので、『還元』という言葉を出してきたのだと思います」
減税に踏み切ろうとしている岸田首相について、太田昌克さんは、「還元っていう言葉が、一人歩きしちゃった側面がある」と話しました。
【共同通信社編集委員 太田昌克さん】
「岸田首相が、やっぱり税収があったから、苦しんでいらっしゃる国民の皆さんに還元したいって言ったと。その言葉を捕まえて与党の幹部たちが『減税』って言い出したわけなんです。これに公明党も抱きついちゃったっていう構図がありまして、岸田首相自身は何も言わないんですよ。私が財務官僚と話したところでは、『総理が減税否定しないんだよなー』って、すごい頭を抱えていました。 本当は今日の演説を先週の金曜日、選挙前にやりたかったんだけれども、それがかなわなかったということで、選挙対策もあると思うんですけれども金曜日にあえて『減税』というメッセージを自身の口から発するという政治的な段取りが取られたということですね。ただ自民党内でも評判が悪く、賢い有権者にはもう見透かされてるよというんです。選挙の数日前に、しかも負けそうな選挙の最中に『減税』って言ったら、もう賢明な有権者の皆さん分かっているわけですよね」
■打つべき対策は「消費税減税」と荻原さん
物価高対策としてどんな対策を打つべきか、荻原さんは、「電気・ガス・ガソリンの消費税を減税せよ!」と指摘します。
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「電気・ガス・ガソリンというのは、皆さんのライフラインですよね。ここの消費税を減税するっていうのは全然おかしいことではない。特にガソリンなんかは40パーセントが税金です。生活必需品から40パーセントも税金を取るってこと自体がおかしいことであって、ガソリンなどの消費税を一定期間でもなくすことにすれば、ガソリン1リットル当たり20円ぐらい下がりますよね。戦争が起きているのでエネルギー関係はこの先まだ値上がりする可能性がある。思い切ったことをしていかないといけないと思います」
■“所得税減税”より“給付金”が手っ取り早い?
ここで、関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問です。
Q.一番早く解決するのは給付金では?所得がない高齢者も恩恵があるのでは?
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「はっきり言って所得税減税というのは、所得税を払っていない人には全く関係のない減税なんです。低所得者、年金生活者の方は税金を払っていない方も多いので、そういう方を助けたいと思ったらいち早く給付すべきです。給付金の場合、法改正の必要もない。今、政府がじゃぶじゃぶにお金を使っている、その少しをこっちに回せば、かなりの皆さんが潤うんじゃないかと思います」
Q.なぜ政治家や財務省は、消費税減税を嫌がるの?
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「消費税というのはいったん下げたらもう上げられないというのがあると思いますね。絶対消費税は下げさせないぞというスタンスなんです。ただコロナの時に、世界24カ国、ドイツやイギリスが国民が苦しんでいる時に消費税を下げました。日本もできないことはないと思います」
Q.しばらく物価の高騰は続きそうですか?
【経済ジャーナリスト 荻原博子さん】
「今また新たに戦争が起きていますよね。これでエネルギーが逼迫しているということがあり、この先まだ上がるかもしれないという状況があります。よくて高止まりといった感じで、しばらく行くんじゃないでしょうか」
生活が楽になる実感が持てる対策を期待したいと思います。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年10月23日放送)