小学生以下の子供を自宅や車の中などに放置することを禁じる埼玉県の条例案に波紋が広がっています。留守番させることを“虐待”とする条例について、関西テレビ「newsランナー」がアンケートをとったところ、圧倒的に反対が多いという結果になりました。この条例に賛成・反対、両方の立場の方とともに考えてみます。
■「留守番は虐待」条例 賛成派と反対派がスタジオで意見ぶつける
賛成の立場として、子供の事故を防ぐ研究をされているNPO法人「セーフキッズジャパン」の山中龍宏理事長に聞きます。
今回の条例案がかなり注目されている状況をどうみていますか?
【セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長】
「子供たちが安全な環境にないために、いろいろな事故に遭っています。これまで対策が取られてきましたけれど、ほとんどが保護者の責任で、保護者が注意すればできると思われてきました。けれどもそうではなく、今回、社会が子供たちの安全を守るという強いメッセージというふうに思っています。それが必要な時代になったと私は考えています」
またこの条例について懐疑的な意見を持つ立場として、大阪市内で高校生から幼稚園児まで8人の子どもを育てている保護者である、鶴山りかさんにものちほどご意見を伺います。
埼玉県議会自民党議員団が10月4日に提出した条例の改正案では、「児童を住居その他の場所に残したまま外出すること、その他の放置をしてはならない」というもので、小学3年生以下の児童を家や車に放置して、親が外に出ることを禁止するという内容です。罰則はありませんが、埼玉県民は発見時には通報義務も課されます。
山中さんは、この条例をどう評価されるのでしょうか?
【セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長】
「毎年のように、例えば自動車に子供を置き去りにして熱中症で死亡するなどの事故が発生しています。これまでの対策ではうまくいかない。虐待もかつては親の管理下ということでほとんど注目されていませんでしたけど、社会で守る時代になっています。社会で子供を守ろうという意志がはっきりしたと思っていますので、こういった条例も含めて子供の安全を守ることが大切だと思っています」
一方、鶴山さんは、こういったケースで児童相談所に通報された経験があるということです。
「通報が義務」となれば、鶴山さんのようなケースが増えそうですが、この条例についてどのように感じますか?
【鶴山りかさん】
「やっぱり通報された経験を持つ私としては、自分の子育てを否定されたような気がしましたし、“虐待”というワードだったり、児童相談所の方が来るという事で、かなり精神的にダメージを受けました。通報する義務があるとなると、私のような経験をする方が増えるだろうし、その通報が誤解であったとしても、虐待を疑われてしまうことで精神的に追い詰められて、子育てしにくくなるんじゃないかと思っています」
■「公園で子供だけ遊ばせる」「年長のきょうだいに見てもらう」も“放置”にあたる
今回の条例案で留守番以外にどんなケースが虐待にあたるかみていきます。
・小学3年生以下による集団下校
・公園で子供たちだけで遊ばせる
・高校性、中学生のきょうだいに見てもらって外出
・子供だけでおつかいに行かせる
これら全てが放置にあたるということで、かなり厳しいようにも感じますが、いかがなのでしょうか?
【セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長】
「現在一般に行われていることだと思いますけれども、子供一人にする危険性を考えれば、全て放置に含まれると考えるべきだと思います。日本ではこれらが虐待にあたるという社会概念がないんですけれど、諸外国では子供の安全は社会で守るという意味でこういうことも放置と規定しているものです。今回急に条例の話が出てきましたが、子供たちを一人にしないようないろいろな社会環境を整えれば、こういったことを“虐待”として十分対応できるとい思っています」
これら4つのケースが虐待になってしまうということで、鶴山さんはどうみますか?
【鶴山りかさん】
「私は守れないです。子供だけで遊ぶのがだめだとなると、子供にも窮屈な思いをさせてしまう。きょうだいにみてもらうのはよくあることなんですけど、病院に行かなきゃいけないとか、必ず上の子に頼ってしまう場面が出てくるので、そういうのも放置にあたると言われると、生活が成り立たないとしか考えていないですね」
【セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長】
「困ることはよく分かりますけれども、子供一人で放置しないような社会体制、例えば学童を充実させるとか、ベビーシッターを入れるとか整えれば、放置にあたると規定してもよろしいんではないかと思います。ただ一人になるような状況をサポートするシステムはないんですね。今回のことをきっかけに社会として充実していけば、放置に含まれるということで、社会の合意が得られるようになるんではないかと思っています」
この条例について、賛否の意見をまとめました。
▼賛成意見
・条例案を提出した埼玉県議会の小久保憲一議員は、「子供を救えるのは、大人だけ。なんとしても放置をなくしたい」
・大阪市在住の小学5年生と1年生のお母さんは、「子供だけを家に残すのは不安しかない。制度が明文化されるのはいいと思う」
▼反対意見
・埼玉県議会の伊藤はつみ議員は、「ワンオペ育児で苦しんでいる親に過度な負担を強いることに」
・埼玉県在住の3歳児のお母さんは、「現実的ではない。復職しづらくなるし、職場の理解がないと働けない」
今回の条例案が育児している方に寄り添っていないのではないかという意見がありますが、いかがなのでしょうか?
【セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長】
「そのような意見も十分に分かりますけれども、例えば車の中に取り残す、あるいはベランダから転落する、 お風呂で溺れる、火遊びで子供が焼け死ぬとか起こっているわけです。やはり子供を放置する危険性を日本社会では配慮が行き渡っていないと思いますけれど、諸外国では数十年前から子供たちを守るために同じような法律を作って子供たちを守ってるわけですので、今回とう突に出てきたような感じがしますけれども、これをきっかけに本当に子供たちの育児支援をするために何が必要か考えるいいきっかけだと思います。そして放置というものを社会全体の中でどう位置付けるか考える必要があると私は思っています」
■ニュージーランドでは“留守番”で罰金も
子供の放置に関して、海外の事例をみてみます。
・アメリカの一部の州では、一定の年齢に達しないと子供だけの留守番はNGとなっていて、メリーランド州は8歳、イリノイ州は14歳に設定されています。
・ニュージーランドでは、14歳未満の子供を一人で留守番させることは違法となっていて、違反した場合、最高2000ニュージーランドドル、日本円で約18万円の罰金が科されます。
ニュージーランドでは、国を挙げて学童保育や地域の預かり所の充実に取り組んでいるということです。こういったサポート制度の充実がないと、日本では反発を招くと思われますが、いかがなのでしょうか?
【セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長】
「おっしゃる通りです。海外がなぜ法律まで作って規制しているかというと、子供の安全が脅かされてる、それを社会が危機と認識しているから、法律で決めたわけです。今回日本では法律が全くなかったところに、条例として出ればかなり議論を呼ぶだろうと思いますし、これをきっかけに本当に子育てに必要な施設とかシステムを考える大変良い機会になるんではないかと思います。今回、実際に施行してみて、本当にどういうところが問題なのか、そしてどれぐらい条例に違反する件数があるのか検証していくことが、日本社会で必要なんだと思っています」
どんなサポートがあれば対応できると鶴山さんは思いますか?
【鶴山りかさん】
「私自身もですが、働いているお母さんが多い中で、職場環境も偏りがあると思うんです。子供に対応できるような環境を作ってもらうというのも一つです。また預け先を拡充という話があると思うんですけど、そこにかかる費用を保護者が全て負担するとなると、子供が多い家庭だったらもう何のために働いてるんだろうということにもなると思うんです。進めていくのであれば、職場の環境も金銭面もサポートを国としてどう進めてくれるんだろうって思います」
ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者から質問です。
Q.留守番ぐらいできないと何をするにも一人でできなくなってしまうのでは?
【セーフキッズジャパン 山中龍宏理事長】
「子供が成長していけば、それなりにできるようになります。子供一人で留守番をしている時の危険性があるわけですから、やはりこの条例をやってみて、それで留守番ができなくなっちゃう子供はたぶん発生しないと思います。検証していけば分かることだと思います」
10月13日の埼玉県議会でこの改正案が可決されるのか、今後、こういった考え方が広がりを見せるのか、注目していきたいと思います。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年10月9日放送)