画期的な判決が言い渡されました。水俣病の症状があるのに、国に救済されていなかった人たちが関西などにもいるのですが、大阪地裁は27日「全員について、水俣病に罹患している」と認定し、国や熊本県、企業に慰謝料を支払うよう命じました。
■訴えを起こしていたのは、現在は関西などに住む128人
訴えを起こしていたのは、熊本県と鹿児島県出身で現在は関西などに住む128人です。
水俣病と診断されたり症状があったりするのに、救済されないのは不当だとして、国と熊本県、原因企業に対し、慰謝料など1人当たり450万円を求めていました。
「水俣病」が初めて公式に確認されたのは1956年のこと。熊本県水俣市の「チッソ」の工場が「メチル水銀」を海に流して魚介類が汚染され、それを食べた人たちに、手足のけいれん・しびれなどの症状が出ました。
大阪府・島本町に住む原告の1人、前田芳枝さん(74)。 鹿児島県に住んでいた10代のころから、字が書けないほど手が震える症状に悩まされてきました。
【前田芳枝さん】
「ごめんなさいこんな字しか書けないんですよ。(葬儀などで)署名をするのにこの手で書けないから…。お友達や近くに居る人に『手をけがしていてペンが持てない、だから悪いけど一緒に書いて』って」
■水俣病特別措置法は救済対象を一部地域の住民に限定
国は2010年、水俣病特別措置法に基づき、症状がある人に一時金や医療費を支払うことを決めました。しかし特措法は原則として、救済の対象を一部地域の住民に限定。 前田さんが住んでいた地域は、対象外でした。
さらに、申請期間は2年ほどで、2014年に初めて自分が水俣病であることを知った前田さんは、申請することすらかないませんでした。
【前田芳枝さん】
「魚を食べただけなんですだけど、こんな体になってしまった。それをどう取り戻せるんですか、どうしてくれるんですかって。どうしてくれるのって…」
■賠償請求権がなくなる除斥期間は適用されるべきではない
救済から漏れた人たちを救うために始まった裁判。
被告側は「汚染は水俣周辺の海に限られていた」と主張したのに対し、原告側は「海の水は回流し、魚も泳ぐので、影響はより広い範囲に及んだ」と主張。
さらに、被告側は「民法では不法行為から20年で賠償請求権がなくなる除斥期間が定められている」と主張し、原告側は「情報を得られない人もいた。除斥期間は適用されるべきではない」と訴えました。
裁判が始まってから9年。前田さんたち原告は「すべての患者を救ってほしい」と願ってきました。
【前田芳枝さん】
「やることはやってきたというつもりでおりますので、もう勝利しかない」
■大阪地裁は「全員水俣病に罹患している」と判断
注目される司法の判断…
27日の判決で大阪地裁は原告128人について「魚介類を介したメチル水銀への暴露により四肢抹消の感覚障害、または、全身の感覚障害などを生じた」として「全員について、水俣病に罹患している」と判断しました。
国が特措法で救済する居住地域を限定したことについては、「特措法の対象地域外であっても魚介類を継続的に多食したと認められる場合は暴露が認められる」としました。
さらに20年の除斥期間については「起点は、水俣病と診断された時」として、原告たちは除斥期間は経過していないとしました。
122人に対しては国と熊本県とチッソの責任、残り6人はチッソのみの責任が認められ、言い渡された慰謝料と弁護士費用は、全員同額の275万円でした。
判決の後の会見では、弁護団や原告から喜びの声が上がりました。
「全員が水俣病だという風に認められました。水俣病の救済問題を大きく前進させる画期的な判決だという風に言ってよかろうと思います」
「私たちは今日の日を指折り数えて待っておりました。もう今日は本当にうれしくてうれしくてたまらないんです」
判決を受け、国は今後、内容を精査して対応を検討するとコメントしています。
■原告の訴えを全面的に認めた判決
この裁判を取材している藤田記者に、今回の判決を原告のみなさんがどう捉えていたか聞きます。
【関西テレビ 藤田裕介記者】
「原告の訴えを全面的に認めた判決で裁判長が『長期間お疲れさまでした』と言い渡しを締めくくると傍聴席からは拍手があがりました。その後の記者会見でも、原告や支援者は喜びに沸いていました」
今回の裁判は“ノーモア・ミナマタ第2次訴訟”というもので、“第2次”というように水俣病で苦しむ人たちは、これまで何度も裁判を起こさざるを得ない状況に追い込まれていました。当事者企業の「チッソ」そして国や行政が、救済に後ろ向きな姿勢を続けてきたからです。
救済措置の一つ「水俣病特措法」が成立したのも過去の裁判によって、国が敗訴したからでした。しかし、国は一方的に居住地域を水俣湾に近い地域、1969年11月末までに生まれた人と限定し、さらにわずか2年程度で申請を締め切るなど、とにかく被害を小さく抑えようとしているように見えます。 この背景には、補償のための支出を抑えたいという狙いがあるとも考えられています。
結局、救済に漏れた人が多く出てしまい、何度も裁判を起こさないといけない状況が生まれているんです。
■大阪地裁の他に同じような裁判が…原告は1700人あまりに
‐Q:今回の裁判の原告の方のように、救済に漏れてしまった方は、どのくらいいらっしゃるのでしょうか?
【関西テレビ 藤田裕介記者】
「その人数も多くなっています。今回、大阪地裁の他に、同じような裁判は熊本・東京・新潟でも提訴されていて原告はあわせて1700人あまりにのぼります。それにまだ自身の症状が水俣病と知らない人や、差別や偏見を恐れて名乗り出ていない人も相当数いるとみられます。水俣病が確認されてから67年がたつので、原告の多くは高齢となってきています。 大阪地裁に裁判を起こした人たちの年齢は、平均すると71歳です。救済を受けるために残された時間は限られています。27日の全面的勝訴という判決は、今後続く他の訴訟にも影響を与えるとみれれます。救済をすべきという司法判断が積み重なっている中で、国は改めて被害者たちの意見を聞いて、救済の枠組みを設けるなどして、一刻も早く対応すべきだと考えます」
(関西テレビ「newsランナー」 2023年9月27日放送)