36人が犠牲となった京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判で、青葉被告が遺族の質問に答え、初めて謝罪の言葉を口にしました。
青葉被告と法廷で対峙した遺族は「話している内容が幼稚すぎて、聞いていてしんどかった。本当に身勝手な理由だった」と語っています。
青葉真司被告(45)は4年前、京都アニメーションの第1スタジオにガソリンをまいて放火し、36人を殺害した罪などに問われています。法廷でも犯行動機について「京アニに 作品をパクられた」などと話す青葉被告。20日、遺族による質問の日を迎えました。
事件で亡くなった京アニを代表するアニメーター、寺脇(池田)晶子さんの夫は青葉被告と初めて対面し直接、質問しました。
法廷に立った寺脇(池田)晶子さんの夫が「池田晶子がいることはご存知でしたか?」と質問すると青葉被告は「作画監督として務めている認識はありましたが、厳密に誰というより京アニ全体を狙う認識、誰か個人という認識はありませんでした」と語りました。
また、寺脇(池田)晶子さんの夫が声を震わせながらゆっくりと「事件前に放火殺人をする対象者に家族…特に、特に子供がいる事は知っていましたか?」と質問した際には、青葉被告は「申し訳ございません。そこまで考えなかったのが、自分の考えであると思います」と答え、法廷で初めて謝罪の言葉を口にしました。
しかし、別の遺族の代理人から「被害者の立場に立たなかったのか」と問われると、「京都アニメーションはパクったりしたことに良心の呵責はないのか」などと、まくしたて、裁判長から注意を受けました。
20日の公判を終えた後、開かれた記者会見で寺脇(池田)晶子さんの夫は「終わってからまだ間がないので、きょうあったこと、まだ自分の中でも整理しきれてない。非常に複雑な気持ち。(青葉被告が)話してる内容が幼稚すぎて、聞いていてしんどかった」と語った上で、質問の際、晶子さんの名前を出した場面については「その場に立つと、感情が抑えきれない。名前を出すと、その人との記憶が走馬灯みたいにして、思い出しちゃうんですよね。非常に身勝手な、ほかの人が質問した内容も聞いたけど、本当に身勝手な理由だったよって(晶子さんには報告する)」と話しました。
取材担当の越後みなみ記者の報告です。
【関西テレビ 京都支局 越後みなみ記者】
「6回目となった20日の被告人質問では、遺族らが被害者参加制度を使い青葉被告に初めて、直接質問する日とあり、法廷内はいつも以上に緊張感に包まれていました。亡くなった寺脇晶子さんの夫は、大きく深呼吸をしてから、青葉被告に訴えかけるように質問をはじめました。寺脇晶子さんの夫は約10分間質問し、時折声を震わせたり、涙で言葉をつまらせたりする場面もありましたが、青葉被告から目をそらさずに、じっと聞いている様子でした。また、ほかにも遺族とみられる人が涙を流しながら聞いている様子もみられました」
公判の鍵を握るのは「闇の人物」の存在です。
青葉被告は京アニの小説コンクールに落選したことが犯行の大きなきっかけになったと 主張しています。ここまでの公判の中で「闇の人物」というキーワードが何度もでてきました。
法廷で弁護側が「事件は小説コンクールを落とされたことがきっかけか」と尋ねると青葉被告は「落選させたのも闇の人物だと考えている。京アニがその実行部隊である。一番狙いたいのは京アニだ」と発言しました。 こうした発言から、弁護側は犯行動機には「闇の人物」がいるとみています。
一方で検察側が「では、闇の人物は敵か?」と尋ねると、青葉被告は「敵対している部分もあればしていない部分もある」と返答しています。また、検察側の「闇の人物は小説の盗用に関わっていないのでは?」という質問に対して被告は「おそらく関わっている」と発言しました。こうした発言から検察側は、「闇の人物」が動機に与える影響は小さいのではないかとみています。
弁護側、検察側、双方の被告人質問から見えた公判のポイントは…
【関西テレビ 京都支局 越後みなみ記者】
「弁護側は、妄想の程度が大きく完全に支配されているといった印象を植え付けるためなのか、どこからが事実でどこからが妄想なのかわからない、理解しがたいような話を被告に存分に語らせているような印象がありました。弁護側は引き続き妄想が責任能力の欠如にどう影響していたかを立証していくとみられます」
「一方検察側は、闇の人物に関する青葉被告の説明について矛盾点や曖昧さを追及していた印象でした。検察側は妄想に支配された犯行ではないとしていて、犯行準備や犯行自体に計画性がみられることや、犯行をためらっているにも関わらず、実行したことなどから、青葉被告の人のせいにしやすいなどの思考や行動の傾向が現れた犯行だと立証していくとみられます」
今後、京アニ裁判を巡っては、10月下旬から争点である責任能力に絞った審理が始まり、青葉被告の精神状態を鑑定した医師の証人尋問なども行われる予定で、責任能力をどう判断していくのか注目が集まります。
(関西テレビ「newsランナー」2023年9月20日放送)