京都の火祭り「松上げ」。
集落の男たちとともに祭りに挑んだ、ある中学生の夏です。
京都市左京区広河原。
人口わずか105人の山あいにある集落です。
菊地峻(きくちしゅん)くん、中学1年。
ことし初めて「松上げ」に参加します。
参加は、幼いころからの憧れでした。
【菊地峻くん】
「迫力があっていい祭りだなと思っています。暗い中で炎が目立つのが迫力あるなって」
広河原の「松上げ」は、300年以上前から続くと言われる伝統行事で火の神に祈りをささげる祭りです。
集落の男は、中学校に上がると祭りに参加できます。
【父・菊地篤さん】
「なかなかしっかりした昔からやっている伝統行事なので、なるべく引き継いでいきたいですけど、人もいろいろ入れ替わったりとか亡くなったりとか、年も取られたりするので」
若者が減り続ける小さな集落。
祭りにはずっと「存続の危機」がつきまといます。
祭りの準備をしていると峻くんを呼ぶ声がします。
「峻!ええ地下足袋履いてきたやんけ」
はじめて参加する峻くんを気にかけてくれていました。
峻くんの参加は広河原にとっても大きな意味を持ちます。
Q.昔から峻くんのこと知ってるんですか?
「赤ちゃんのときから。な。2,3歳の頃は『峻!』っていうと逃げていってた。怖がられててん」
20メートルもの高さがある燈籠木(とろぎ)を設置します。
祭りの法被に袖を通すのも、初めて。
【菊地峻くん】
「表?どっちが?」
【菊地篤さん】
「今日は気にしなくていいよ」
真新しい手ぬぐいをしっかりと頭に巻き付けます。
祭りの男たちは、燈籠木のてっぺんにたいまつを投げ入れ、「一番点火」を目指します。
【菊地峻くん】
「目標は入れたいですね入れていい思い出作れたらと思います」
午後8時―
ついに祭りが始まります。
「初参加、菊地峻くんがおります。がんばって」
峻くんが紹介されると拍手で参加を歓迎されました。
辺りを照らすのはたいまつの火だけ。
峻くんも両手でたいまつを持っていきます。
「峻、はよ行け、行け」
なかなかたいまつを投げることができずにいた峻くんに活が入ります。
峻くんが放ったたいまつは後方へ…
「大丈夫、大丈夫、まだ(火は)生きてる」
「おいしょーっ」「よっしゃー」
みごと先輩がたいまつを投げ入れることができました。
祭りは一気に盛り上がります。
峻くんは何度もチャレンジしますが、なかなか入りません。
まだ遠い先輩たちの背中…
火がともされた燈籠木は倒され、てっぺんにあった炎は地面に落ち、火の粉が舞い上がります。
さらに炎を舞い上げる「つっこみ」が行われ、峻くんも参加しました。
【菊地峻くん】
「広河原は僕が生まれたところだし、いずれ高齢者ばかりになるかもしれないですけど、今もそうですけど。このまま僕のふるさとですし、つぶれないで続いてほしいです」
13歳の夏。
一歩、集落の男に近づきました。
(関西テレビ「newsランナー」2023年8月30日)