特例承認された治療薬「エバシェルド」 コロナ対策の決定打になるか? 免疫を得にくい人には期待大 若者の感染防止にも使える? オミクロン対応ワクチン前倒しや療養期間の変更についても 専門家に聞く 2022年09月01日
新型コロナの新しい治療薬「エバシェルド」が特例承認されました。新型コロナウィルス対策の決定打となるのでしょうか。
8月30日、特例承認された新型コロナの新しい治療薬「エバシェルド」。イギリスの製薬大手アストラゼネカの注射薬で、重症化リスクのある患者に投与することとされています。さらにこの薬、初めて“ある効果”が確認されました。
【加藤勝信 厚労相】
「ワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある方がいらっしゃいます。そういった方などにおいて、“ウイルス暴露前の発症抑制”に使用できる初めての薬剤となります」
「エバシェルド」に期待されている、“発症抑制効果”。海外の治験では、コロナウイルスに感染していない人に対して、1回の注射でおよそ8割、発症を抑えられたことが確認されました。
免疫不全や抗がん剤治療を受ける患者など、ワクチンの効果が得られにくい人に対して効果が期待されていて、その効果は半年ほど持続するとされています。
【加藤勝信 厚労相】
「発症抑制での使用を想定して15万人分確保している。必要な対象者へ供給できるよう、引き続き必要量の確保に向けて、企業とも調整していきたい」
具体的な投与対象については今後、ガイドラインで示される予定です。
「エバシェルド」には、それぞれ6カ月継続する【治療効果】と【予防効果】があるとされています。予防効果が見込まれる薬としては国内初となり、ワクチンのような使い方も期待されます。
【治療効果】感染後の投与で、重症化・死亡リスクが、50.5パーセント減少
【予防効果】感染前の投与で、発症予防効果が76.7パーセント減少
それぞれの効果について、関西医科大学附属病院の宮下修行教授に話を聞きます。
――Q:効果が6カ月続くというのは、すごいことなんでしょうか?
【宮下教授】
「『エバシェルド』と同じ“抗体製剤”は、これまでに『ロナプリーブ』と『ゼビュディ』の2つが承認されていますが、継続期間が短く、予防効果も証明されませんでした。『エバシェルド』の“生体の中で長く続く効果”というところは、非常に期待できます」
――Q:厚労省は、今回は【予防効果】を期待しての使用を想定しています。ワクチンは“抗原を投与して体内で抗体を作る”もの、エバシェルドは“抗体そのものを投与”するもので、即効性と持続性が期待できるとのことですが、詳しく教えてください。
「ワクチンは、『スパイクタンパク質』というトゲの部分の設計図を私たちの体に打つことで免疫を誘導します。免疫を誘導して抗体をたくさん作るのですが、人によって、抗体をたくさん作れる人から作れない人までさまざまです。たくさん作れない人が一定以上おられるので、『できあがった抗体を直接体の中に入れよう』というのがエバシェルドです。接種時の副反応、アレルギー反応のようなものはみられますが、ワクチンのような発熱はありません」
――Q:現在は、がん患者や免疫不全の人に、発症予防として投与予定なんですね
「ワクチンでは抗体を作りにくいのが、がん患者や免疫不全の人です。こういった方々は、これまで病院内でクラスターが起こった時に、重症化したり、亡くなったりしてしまうケースがありました。ワクチンを打っているんですけど抗体ができなかった。こういった方々を救わなければならない、というのがあります」
――Q:点滴ではなくて筋肉注射なのも、扱いやすいということですが…
「これまでの“抗体製剤”2つは点滴でしたが、エバシェルドは筋肉注射で、ワクチンを打つような感覚で接種することができます。また、体内に残りやすい一つの要素になっています」
――Q:この薬があれば、高齢者の命を守れるんでしょうか?
「デルタ株までは肺の中で増殖したので、肺炎で重症化しました。オミクロン株はBA.1、BA.2、BA.5と、どんどん気管支の上の方に増殖の場を持ってきています。これが刺激になって体内の心臓や血管に炎症が起こり、その後、二次的に基礎疾患が悪くなるという方が増えています。エバシェルドの治療効果は“コロナの重症化・死亡リスクの低減”なので、一定数は救えるかもしれませんが、高齢者全てを救える薬ではありません」
――Q:基礎疾患のない私たちがワクチン代わりに使うことはできますか?
「大きなポイントが2つあります。1つはワクチンを打つ理由、これは重症化予防ですね。発症予防効果ではありません。重症化リスクの低減は50パーセント程度なので、エバシェルドよりワクチンの方が、重症化予防という点では効果があります。もう1つ、エバシェルドは非常に高価な薬なんです。全員に使うのは難しいですね」
――Q:政府の方針転換についてもお聞きします。当初は10月予定だったオミクロン株の対応ワクチン接種を前倒し調整するとのことですが、こちらについてはいかがですか?
「今後、オミクロン株が収束するなら、オミクロンではない株が出てくる可能性が高いです。そうなると、オミクロン株の対応ワクチンが効くかどうか分かりません。子供の感染も増えていますので、学校が始まって、このまま第7波が高止まりする可能性もあります。今の第7波を早く終わらせるという意味で、既存のワクチンで3回目、4回目の接種を急いだ方がいいと私は思います。オミクロン株の対応ワクチンの接種が始まっても、これまでのように高齢者優先であれば、若い方が摂取できるのは3カ月、4カ月先かもしれません」
――Q:療養期間は、有症状者は10日から7日へ、無症状者は7日から5日への短縮が検討されているようです。これらについてはいかがですか?
「BA.5になってから、潜伏期間が短くなりました。“感染させる期間”が短くなったので、一定の妥当性はあります。しかし有症状者の咳(せき)は、マスクをしていても隙間からウイルスが漏れてしまいます。特に高齢者施設や病院など、重症化リスクの高い方がいらっしゃる場所では、有症状者の療養期間短縮はまだ早いと思います。無症状者は、会話が原因で人を感染させますので、マスクをしっかりつけて会話をしなければ問題はありません」
――Q:療養期間中の過ごし方については、「熱が下がった後、無理をしない程度に体を動かすことが大事」と提言されています。どういうことですか?
「オミクロン株BA.5に感染した方は、全身の倦怠感(けんたいかん)が残る方が多いんです。10日間療養されている間に筋力が落ちてしまうので、体を動かすことがとても重要で、その後の復帰を早めるはずです」
――Q:国としては、10日間の療養期間中はなるべく外出しないようにとのことですが…
「マスクをして会話をしなければ人にうつすことはありませんので、早朝や夜に人のいないところで運動することは問題ないと、私は考えています」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年8月31日放送)