“最強クラス”の台風襲来 その時自治体はどう動く? 泉大津市役所の長い日 避難所開設・広報・見回り・問い合わせ対応… 激動の1日を密着取材 2022年09月20日
19日夜から20日にかけて、近畿地方に最接近した“過去最強クラス”の台風14号。自治体は避難所の開設など対応に追われた。
線状降水帯など大雨災害発生の恐れも想定される中、大阪府泉大津市ではどう対応にあたったのか、1日密着取材を行った。取材を進めると、自治体が抱える悩みや、課題が浮き彫りになった。
(大阪府泉大津市役所)
■午前9時すぎ
取材班は泉大津市役所に到着した。小雨が降る程度で風はまだそれほど強くない。台風が遠い状況でも、災害対応を行う危機管理課の空気は少し張りつめていた。
現場で指揮をとる政狩拓哉(まさかり たくや)危機管理監は、朝からさまざまな部局と連絡を取り合っていた。
(左:災害時の対応で指揮をとる政狩危機管理監)
台風14号の影響で、鹿児島県では建設現場のクレーンが折れる被害も発生。市役所近くのクレーンに危険がないか確認し、住民に注意喚起をするよう動いていた。
政狩危機管理監は「休日なので、業者などに連絡がつきにくいこともあるが、住民から不安の声もあると思う。早めに対応することが大切だ」と話す。
(政狩危機管理監)
■午前9時半
市から避難情報を出してはいないが、危機管理課は早期に避難所開設をしようと準備を進めていた。
地震や台風などの災害時は、対応する職員の人手が足りないことが自治体の悩みの種だ。泉大津市の危機管理課の職員は7人しかいない。他の部局に応援を要請して人員を確保し、避難所開設の手順などを説明していた。
(避難所開設に関する注意などを行う)
【政狩危機管理監】
「近畿を襲った4年前の台風21号の時も、あれほど大きな被害が出ると思っていなかった。大災害時は、危機管理課だけではなかなか対応できないので、(他部署の職員にも)避難所の開設手順に慣れてほしい。気象庁から線状降水帯が発生する恐れがあると予測情報も出ているため、十分注意しながら対応にあたるように」
政狩危機管理監が応援の職員たちに強く訴えたのは、4年前の災害経験があるからだ。
(打ち合わせの資料)
4年前の台風21号では、建物の屋根が吹き飛ばされるなど当初の予想よりも大きな被害が発生し、泉大津市役所内は混乱した。
(2018年9月4日台風21号 泉大津市内の被害)
今回も油断はできないため、暴風警報が出る前に、小学校8カ所を自主避難所として開設することを決め、午前11時の開設を目標に動き出した。
(避難所開設に向けて動く職員)
■午前10時半
しかし、避難所の開設準備は想定通りにはいかなかった。慣れない作業に戸惑う職員も多く、準備方法や備蓄品に関する質問が、無線で殺到したのだ。さらに、体温計などを避難所に手配できておらず、スムーズに準備が進まない。
(パルスオキシメーター)
新型コロナの感染が広がってから、本格的に避難所を開設するのは初めてのこと。結局、30分遅れて、全て開設することになった。
(エリアメールで避難所開設の情報が市民に届く)
同時並行で、市の広報車から避難所を開設したことを住民に呼びかける準備も進めていた。
(広報文言を考える職員 左は高齢介護課 右は税務課)
応援の職員たちが自分で文言を考えるが、政狩危機管理監がダメ出しをする場面も。
【政狩危機管理監】
「固有の小学校名をたくさん並べると、広報車の一瞬の放送では理解しづらい。“小学校に避難所を設ける”“明るいうちに避難”を明確に伝えたほうがいい」
(当初考えた文言 具体的な学校名を広報車の放送で即座に理解するのは難しい)
■午前11時半
開設できホッと一息かと思いきや…住民からは問い合わせの電話が相次いだ。
人が集まる避難所に関しては、新型コロナウイルスの感染を心配する声も多い。そういった声に対して市の職員は、「各避難所の入口で検温や消毒の対応はしているので、その辺りも踏まえて…絶対に避難所に行ってくださいというわけではないのでご自身の判断になってくると思います」と丁寧に対応していた。
(問い合わせに対応する職員)
事態を想定して、市民の電話問い合わせに対応する応援職員も配置していた。災害時には被害の情報収集だけではなく、「市民の不安な声」にしっかり答えるためにも、人員の確保は必要不可欠だ。
(19日午後 市役所の駐輪場の自転車は軒並み倒れていた)
■午後1時ごろ
泉大津市内に暴風警報が発表され、市役所付近でも風が強くなってきた。職員たちに落ち着く暇はほとんどない。午前中に録音した音声を使い、広報車で避難所の開設を知らせた。
(避難所の開設を知らせる広報車)
■午後3時
避難した住民が10名程度いることが分かり、避難所の見回りにも向かう。
ある避難所ではペットの犬を連れてきた女性が、「他の避難者に迷惑はかかると思うけれど、どうしても放っておけなくて…」と悲痛な思いを職員たちに訴えていた。
(ペットを連れて来る住民も)
市のルールでは、ペットと一緒では室内に滞在できない。女性はケージを持ってきていたが、目が届く場所にいたいと言う。結局「玄関にペットのケージを置き、玄関近くに女性のテントを張る」案で、納得してもらう形になった。
11年前の東日本大震災、6年前の熊本地震の時のように、家族であるペットとどう避難するのか、自治体はそれに対してどう備えるのか。対策について、改善の余地はまだありそうだ。
(ペット連れの避難への備えに課題も)
一方で、早めの避難を喜ぶ人もいた。一人暮らしの60代女性は「4年前の台風の時は避難を躊躇(ちゅうちょ)してしまい、自宅で怖い思いをした。今回は避難所を早く開けてくれたので、行動しようとするきっかけになり助かった」と安堵の表情を浮かべていた。
(避難した住民。個室のテントで夜を明かす)
■午後6時すぎ
辺りが暗くなるにつれて、泉大津市内の風も強くなってきた。外で取材をしていた際、政狩危機管理監から「新たな試みでホテルに妊産婦の方々を避難させている」と連絡を受けた。
泉大津市が去年から始めた「ホテル避難」はコロナ禍の情勢を踏まえ、災害時に妊産婦がホテルの個室を避難所として利用できる取り組みだ。対象となるのは洪水などで浸水が想定される区域に住む妊娠中か出産後1年以内の女性で、宿泊代金は市が負担する。
(妊産婦を受け入れたホテル)
子供連れで避難した20代の妊婦は「家がアパートの1階ですぐ近くに川があるので不安だった。コロナのこともあったが、遊び盛りの子供を連れてなかなか避難所に行きづらかったので、良い取り組みだと思う」と振り返る。
(母子ともにストレスなく快適な様子だった)
■取材を通して
災害時の自治体の対応は多岐にわたり、初動の動き方も含めて苦労を垣間見た1日だった。「実体験が結びつかないと、災害対応は難しい」という政狩危機管理監の言葉が印象的だった。
災害時の対応が想定通りに行くことはほとんどないだろう。ただ自治体が積極的に動いたことで、少なからず安心できた住民たちがいたことは大切で、今回の台風を教訓に模索を続けてほしいと願う。
(関西テレビ記者 宇都宮雄太郎)