2022年3月、東北地方で発生した地震。一般の家屋や商店だけでなく、災害時の「命の砦」ともいうべき医療現場も大きな被害を受けました。
課題は「耐震化」。全国の病院が今、同様の問題を抱えています。
■最大深度6強 医療現場を襲った揺れ
3月16日、宮城県と福島県で最大震度6強が観測され、インフラは深刻なダメージを受けました。その影響は、地域の医療を支える「命の砦」にも…
地震の翌日、宮城県山元町にある築50年の「宮城病院」。この地域で唯一の総合病院です。
【宮城病院 若佐孝男 事務部長】
「開いたか?」
【業者】
「全然開かないですね」
【宮城病院 若佐孝男 事務部長】
「揺れて(金具が)曲がった? そんなことあるんだ…」
救急外来の患者を診察する部屋の扉が、開かなくなっていました。チェーンソーで切断し、やっと開けることができましたが、治療ができる状況ではありません。
病院内の備品が壊れたため、予定されていた手術は中止。また、配管も破損し水が噴き出したため、多くの診察室が水浸しになり、使うことができなくなりました。
地震の2日後、宮城病院ではミーティングが開かれました。
【宮城病院 永野功 院長】
「おはようございます。3月16日の地震の被害状況等について、ミーティングを開始します」
【管理課長】
「現在、町からの水の供給は通常量の半分。できるだけ節水していただく対応をお願いします」
断水のため、町に給水を要請しましたが、医療に必要な量は十分に確保されないままでした。
【宮城病院 若佐孝男 事務部長】
「(棚などが)倒れないようにする補強工事を、3月中にやる予定だったんです。それをしないうちに地震が来たので、もう少し早くやれば良かったと思います」
■止められない地域医療 脳神経外科は内科の部屋で
【職員】
「ここら辺で見えます?」
職員が貼ったのは、「本日、脳外科外来は神経内科外来にて行います」と書いた紙。地域医療を止めるわけにはいきません。損傷している部屋を使わず、別の場所で診察を継続することにしたのです。
脳神経外科の医師は、内科の部屋で患者を迎えます。
【脳神経外科の医師】
「前の診察室が水浸しになって使えなくなったので、今日こっちに来てもらったんだけど、(患者さんの家は)地震どうだった?」
【患者】
「(家の中は)ばらばら…」
――Q:今日ここで診察を受けられることはどう思いますか?
【患者】
「ありがたいと思います。(病院が)今日やっているか心配した」
■老朽化部分の損傷 求められる耐震化
地震の4日後、宮城病院は専門の業者とともに建物の検査をすることにしました。階段の壁をたたくと、上部と下部で音が異なります。
【業者】
「これがくっついている(正常な壁の)音で、こちらが崩れている方」
【宮城病院 若佐孝男 事務部長】
「壁が浮いているの?」
【業者】
「もっと揺れたらバサッと剥がれてくる」
崩れていなくても壁の内部の損傷が激しく、改築して新たに耐震補強をしなければならないことが分かりました。
【宮城病院 若佐孝男 事務部長】
「できるだけ地域医療を途絶えさせないようにと思っているので、(外来診療が休みの)土日だけの工事でもしょうがない。何カ月も休診して全く地域医療ができなくなる、それだけは避けたい」
■全国の病院で課題の「耐震化」 関西でも…
老朽化による深刻なリスク。実は、全国の病院が今、建て替えを迫られる「分岐点」に差し掛かっています。
病院の着工件数の推移をみると、1970年代後半がピークになっています。築40年以上が経過している病院は、大規模な耐震対策が必要となっているのです。
関西でも対策に乗り出す病院はあります。しかし、簡単なことではありません。
【ヴォーリズ記念病院 五月女隆男 院長】
「この建物は別館といって築55年になります。耐震構造を満たしていない。災害が起こると崩壊しかねません」
滋賀県にあるヴォーリズ記念病院は、老朽化が激しい別館の建て替えを8年前から検討してきましたが、運営面で課題がありました。
【ヴォーリズ記念病院 五月女隆男 院長】
「増築・改築ということになると、病床を休床することになる。168床中、40、50床の休床が生じる、これは避けざるを得ない。でないと経営が成り立ちませんし」
改築の道を模索しましたが、断念。近くの用地を確保して新築し、今年の秋に移転することを決断しました。移転にはおよそ40億円の費用がかかりますが、必要な備えだと話します。
【ヴォーリズ記念病院 五月女隆男 院長】
「地域の人が安心して療養できる環境を整えたいというのが今の思い。南海トラフ地震等を考えた場合、大阪府・和歌山県・一部兵庫県は被災する可能性が非常に高い。大災害が起こった場合の(患者の)受け入れ病院としての役割も十分にあるのかなと」
■耐震化が進まない2つの理由
国は、全国の病院の2021年までの耐震化率80%を目標としていましたが、近畿では京都府が全国ワーストの65.6%、大阪府も69.6%にとどまっています。
国の調査では、近畿にある病院のうち、およそ3割は耐震化ができていません。原因として、専門家は「医療継続しながらの改築が難しいこと」「増改築の費用がかかること」を指摘しています。
「耐震化」に直面する病院。大きな災害が起こったとき「命の砦」になれるのかが、今、問われています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年4月15日放送)