【解説】「窓の鍵を開けて逃げ出す」「蛇口をひねって水を飲む」「罠にかからない」 福島"居座りクマ"の賢すぎる行動06月05日 18:07
「まさか鍵を開けて出てくるとは、私たちも想定していませんでした」
クマの生態に詳しい福島大学の望月翔太准教授は、そう語りました。
関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」は、福島市内の工場にクマが立てこもった事件を詳しく解説しました。
専門家の想定を超える“居座りクマ”の能力とは。
■「4人を襲い、工場に居座り、鍵を開けて逃走」事件の経緯
6月2日の早朝6時半ごろ、福島市内の住宅地に突如クマが出没しました。
駐車場に侵入し、2人の男性を攻撃。さらに1メートル強の塀を飛び越えて80代の女性を、続いて工場内の警備員を次々と襲い、計4人がけがをしました。
クマはその後、3階建ての工場に立てこもり、午後11時近くまで居座り続けました。
工場職員が施錠を確認していたにもかかわらず、クマは自ら窓の鍵を開け、網戸を突進して脱出。建物内の水道の蛇口をひねって水を飲んでいた形跡まで残されていました。
「工場の方は、終わった後に現場を見て、本当に驚いたとおっしゃっていました」と、田中良幸リポーターは現場から伝えました。
■「鍵の仕組みを理解している可能性がある」
蛇口をひねる、鍵を開ける…これらの行動は、単なる偶然ではないかもしれません。
望月准教授は「クマは手先が器用で知能の高い動物なので、能力としては十分に可能です」と前置きしつつ、こう続けます。
【望月准教授】「最近は"アーバンベア"、つまり人里付近で生活するクマが増えています。空き家や廃墟に入り込む中で窓の構造を理解し、"こうすれば開けられる"と学習していた可能性も十分に考えられます」
一度学んだことを次に活かす。その学習能力の高さこそが、山に生きるクマとは異なる"アーバンベア"の厄介さだと望月准教授は強調します。
【望月准教授】「蛇口を回して水を飲んだ経験をした個体は、次から蛇口を見れば"ここに水がある"と理解します。山のクマとは違い、人里のクマは学習することで、どんどん手ごわくなっていくんです」
■「若いクマほどストレスが持続する」 なぜ一日中興奮していたのか
早朝から深夜まで、クマはなぜ興奮状態のままだったのでしょうか。
望月准教授はいま進めている研究を引き合いに出して解説しました。
【望月准教授】「クマの体毛にはストレス成分が蓄積されていて、過去1年間のストレスの動きを分析できます。研究で分かってきたのは、年老いたクマより若いクマのほうが、一度受けたストレスが長く持続する」
今回のクマは比較的若い個体とみられています。体当たりの興奮が冷めないまま、逃げ込んだ工場内でも高ぶり続けていたと考えると、一連の行動の説明がつくといいます。
■捕獲作戦は、なぜ失敗したのか
市が講じた対策は以下のとおりです。
・ わな4基を設置
・ パトカーで扉が開かないよう封鎖
・ 工場職員が窓の施錠を確認
・ クマを落ち着かせるため夜間は消灯
・ 麻酔銃で対応(命中したが薬液は注入されず)
・ 市職員10人態勢、警察が交通規制と敷地包囲
麻酔銃が命中したにもかかわらず麻酔が効かなかった理由について、望月准教授は「この時期は冬毛から夏毛への切り替わるタイミングで、毛がフェルト生地のように厚くなっており、針が筋肉まで到達しなかったと考えられます」と解説します。
また、工場に引火物があったため猟銃の使用は困難だったということです。
夜間に電気を消してクマを落ち着かせ、箱罠に誘導しようとした判断については、「専門家として間違った対応ではない」と望月准教授は解説します。しかし、警戒のための人員を減らしたすきに、クマは鍵を開けて脱出しました。
「いろいろな不運が重なった結果です」と望月准教授は見解を述べます。
■「走って逃げると追われる」 クマと遭遇したときにすべきこと
今回、クマは人に接触する前からすでに疾走状態でした。
【望月准教授】「逃げている導線上に人がいて、襲ってしまったケースです。走って逃げると追跡本能が働くので、走ってはいけません」
もし至近距離で突進されたら、人間にできることはほとんどありません。推奨される対応は「頭と首をしっかり守り、腹ばいになって防御姿勢を取る」こと。これが世界的に指導されている対処法だと言います。
クマ撃退スプレーについては「有効ではあるが、あのスピードで突進してくる場合は、当たっても突っ込んでくる可能性がある」とも語りました。スプレーはあらかじめ取り出しやすい状態で携帯しておくことが前提です。
■「人を4回襲った成功体験がある」再出没のリスク
事件後も新たな目撃情報が相次いでいます。
5日朝4時すぎ、福島市笹木野の水田付近で目撃されたとの情報が入り、市はドローンで上空からの捜索を行いましたが、発見には至っていません。
距離は工場から約2キロ。望月准教授によれば、GPSを使った研究では、興奮したクマが小さな林に3~4日潜伏しながら移動するケースが確認されており、同一個体の可能性も十分あるといいます。
【望月准教授】「人を襲って危険を排除できたという成功体験を、このクマは4回もしています。今後も人を見たら同じ行動を取る可能性は十分に考えられます」
■東京への接近と、今後の警戒
環境省の資料を基に、東京農工大学の小池教授が作成したデータによれば、ツキノワグマの分布域は1978年から2018年にかけて、着実に東方向 …つまり東京都心に向かって拡大しています。
河川沿いはクマが移動しやすいルートだと望月准教授は指摘します。
【望月准教授】「多摩川の河川敷をつたって都心部に出てくるケースもあり得ます。用水路にクマが潜んでいて、歩いていたら急に飛び出してきたという事故も起きています」
昨年の大量出没で人里を学習したクマたちが今年の春先から各地に出没を続けているということです。
問題はもはや山間部だけのものではありません。
(関西テレビ「旬感LIVE とれたてっ!」2026年6月5日放送)