「口の中に眠るお宝」銀歯が1000万円以上の価値に? 貴金属高騰の裏で歯科医院は“赤字治療”の苦境 狙われた銀歯…歯科医師の犯行は業界の悲鳴か06月06日 08:00
「腹立たしい限りですよ。こんな人が人さまの口の中を触っていたら」
被害を受けたクリニックの理事長は、怒りをあらわにします。
患者の口から取り除いた銀歯や金歯が、勤務していた歯科医師によって密かに持ち出され、現金に換えられていた…そんな信じがたい事件が起きました。
しかし、取材を進めると、歯科医院を取り巻く厳しい現実が浮かび上がってきました。
■防犯カメラが捉えた「白衣の男」の行動
ある歯科クリニックの控室。防犯カメラの映像には、白衣姿の男が容器を手に取り、そのままポケットに入れて立ち去る様子が映っていました。
さらに2週間後も、同じ男が再び容器に手を伸ばし、中を覗き込みます。今度は目当てのものがなかったのか、容器をもとに戻して立ち去りました。
この男は、クリニックに週に1回勤務していた歯科医師。ポケットに忍ばせていたのは、患者から取り除いた銀歯や金歯でした。
男は去年8月、銀歯などを無断で持ち出し、業者に売却して現金化したとして、窃盗の疑いで逮捕・起訴されました。
■盗んだ歯科医「6回にわたり、およそ50万円分を盗んだ」
被害にあったクリニックの理事長は、こう振り返ります。
【クリニックの理事長】「(歯科医師が)勤めていた期間1年半にわたって、通常であれば回収される金属がほぼゼロだった。他の医院は何十万、何百万円という回収金額の中で、数千円の回収しかなかったわけはないので」
不審に思った理事長が防犯カメラを設置したところ、持ち去る様子が映っていたのです。男は理事長に対し「6回にわたり、およそ50万円分を盗んだ」と認め、示談を持ちかけてきました。
しかし理事長は応じませんでした。
「こんな金額ではありません。我々にとっても大事な収入源の1つですし、ずっとためているわけですね、売却のタイミングを見計らっているわけなんで」と、実際の被害額はそれをはるかに上回るとみています。
■「銀歯」の中身は、実は貴金属の宝庫だった
歯科クリニックで取り外した銀歯は、いったいどれほどの価値があるのでしょうか。
取材班は、歯科用の金属を専門に買い取っている業者を訪ねました。(※今回の事件とは関係ありません)
全国の歯科クリニックなどから送られてくる、使用済みの銀歯や詰め物。これらは1000度の高温で不純物を取り除かれ、さらに溶かされることで金属の塊へと変わります。
分析器にかけると、驚くべき数字が表示されました。
「金が10.61%、パラジウムが15.48%、銀が51.12%という数字が出ています」
銀歯には、銀だけでなく金やパラジウムなど複数の貴金属が含まれているのです。さらに精製されると、銀歯はピカピカの銀塊へと姿を変えます。
■「価値がないもの」から「口の中に眠るお宝」に
業者の社長は、近年の買い取り需要の変化についてこう話します。
【シカキン 新崎哲雄社長】「インフレが進んでいて貴金属相場も上がってきていますので、以前よりも換金したいとか、商品を買いたいという皆さんの気持ちが強くなっていると感じる。5年前の少なくとも2〜3倍の件数や数量になっていると思います」
銀の価格は5年前は1グラムあたり約100円でしたが、5月時点で412円にまで上昇。銀歯はかつて「価値がないもの」とされていましたが、今ではまさに「口の中に眠るお宝」となっています。
ある総合病院から届いた「銀歯の山」の買取金額は、なんと1000万円以上になったケースもあるといいます。
■高騰が「追い風」のはずが…歯科医院を直撃する"逆風"
貴金属の高騰は、歯科クリニックにとって良いことづくしのように思えますが、歯科の現場を取材すると、厳しい実情が明らかになりました。
【医療法人えみは会 加藤直之理事長】「(貴金属の)市場価格がガッと上がった時に、診療報酬が追いついていない。(銀歯1本あたり)2〜3000円から1万円弱ぐらいの持ち出しになることも結構ある」
銀歯を取り除くだけでなく、新たに付け直す治療もあります。“治療資材”としての銀歯の仕入れ値も高騰しているのです。
しかし国が診療報酬を見直すのは2年に一度。今月が改定のタイミングでしたが、銀歯の仕入れ値が診療報酬を上回る形は変わらず、クリニック側が差額を負担し続けている状況です。
【医療法人えみは会 加藤直之理事長】「なかなか僕らも苦しいとこある。でもしょうがないよねってなる。患者さんのために多少持ち出してでもやる」
患者のために赤字覚悟で治療を続ける実態が明らかになりました。
■コンビニより多い歯科医院、しかし倒産は過去最多
厳しい経営環境は、街中にも目に見える形で"異変"をもたらしています。企業の倒産情報などを調査する東京商工リサーチの担当者と街を歩くと、次々と閉じた歯科クリニックに行き当たります。
【東京商工リサーチ 杉田瑞希さん】「こちらは歯科診療所としてかつて運営されておりましたが、1年ほど前に破産となって、現在は運営されていない状態となっています」
3年ほど前に破産になった歯科医院の跡地だけが残っている場所も。
東京商工リサーチによると、直近5年間に大阪府内で破産、廃業した歯科クリニックは約40件。
全国でも増加傾向にあり、去年の破産件数は過去20年間で最多となりました。
■「恩を仇で返す」憤る理事長
今回、京都府内で銀歯窃盗により逮捕・起訴された歯科医師の男も、かつては複数のクリニックを経営していました。
しかし業績が悪化し、4年前には5億円以上の負債を抱えて破産。窃盗の被害にあった理事長は男の古くからの知人で、「なんとか助けたい」と週に一度、勤務医として雇うとにしたのです。
理事長は複雑な思いをこう語ります。
【被害にあった理事長】「恩人であることに疑いの余地はないかなと私自身も思うんですけど。恩を仇で返すようなひどい犯行だな」
男は代理人を通じて50万円の弁済を申し出ましたが、理事長は実際には数百万円分が盗まれたとみており、応じていません。また、本人から謝罪の言葉は一度もないといいます。
そして先月末に開かれた初公判。男は起訴事実に間違いはないかと問われ、こう述べました。
【歯科医師の男】「歯科用金属を持ち出したことは間違いございませんが、理事長から『持って行っていい』と言われていたからです」
当初、理事長に対して犯行を認めていたのが一転、無罪を主張したのです。
法廷を出た男に記者が問いかけると...
【記者】「否認に転じた理由は?」
【歯科医師の男】「…」
【記者】「理事長に対して言葉は?」
【歯科医師の男】「僕も言えないんで、申し訳ないですけど」
一方、理事長は「事前に許可は与えていない」と真っ向から否定しており、今後の裁判で事実関係が争われる見通しです。
(関西テレビ「newsランナー」 2026年6月3日放送)