番組審議会 議事録概要
『安藤忠雄次世代へ告ぐ』について審議
- 放送日時
- 2020年8月1日(土)10:25~11:17
(関西ローカル放送) - 視聴率
- 個人全体
[関西]1.1% 占拠率(6.6%) - オブザーバー
- 報道局報道センター プロデューサー
萩原 守
報道局報道映像部 カメラマン
樋口 耕平
参加者
委員 |
委員長上村洋行(司馬遼太郎記念館 館長 司馬遼太郎記念財団 理事長) 委員長代行難波功士(関西学院大学 社会学部 教授) |
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関西テレビ |
羽牟正一 代表取締役社長 |
議題
- 当社の組織変更、役員・局長人事報告及び10月改編について
- 局に寄せられた視聴者からの意見・苦情等の概要9月
- 審議 番組「安藤忠雄 次世代へ告ぐ」
- その他 番組全般、放送に対するご意見、質問等
9月10日に開催された第617回番組審議会では、当社の組織変更の説明及び役員・局長人事、10月改編状況についての報告を行いました。
番組審議は、ドキュメンタリー『安藤忠雄 次世代へ告ぐ』(8月1日放送)について審議されました。世界的建築家・安藤忠雄がその建築を通じて次世代に何を告げようとしているのか、4K撮影の映像にこだわったこの番組について、番組審議会委員からさまざまなご意見をいただきました。
演出をはじめ番組制作手法について
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言葉でメッセージを伝えるというよりも、むしろ映像を中心に伝えるという手法を積極的に取り入れられていた。安藤さんの設計への思いは、そこを使っている人を映すのが一番感じ取りやすい、映像が多い今回の番組は好印象だった。
言葉の情報量が少ないということは否定はできないが、映像のきれいさと、映像としての情報量が詰め込まれていて、新しい形のドキュメンタリー番組だった。 - ナレーションがなかったのがまずよかった。テロップだけで見せて、要らない説明をしない。途中で分かったが、これは安藤忠雄の建築を紹介する番組ではないなと。安藤忠雄がコンクリートの建築家であるということすら、この番組では明示されていなかった。そのあたりの割り切り方もはっきりしてよかった。つまり、安藤忠雄は次世代への文化の継承者であるというところをはっきり出している。こういう人が大阪にいるというふうな迫り方だった。
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構成の面で何が言いたいかが分からないところが多かったという印象。字幕が出たり出なかったりして、その字幕を出すことの理由が分からない。
全体的に、建築のことを言いたいのか、コンセプトを言いたいのか、何を次世代に告ぐのか。次世代とはどのような世代なのか、何かちょっと曖昧というか欲張りでよく分からなかった。 - この番組は秀逸。アルマーニのテアトロ劇場から始まる冒頭からカメラアングル、音楽、途中に挟み込まれる静止画、さらにはバレエダンサーの映像など、すべてが見事。説明不足という話が出ているが、「あれは何だったのか」と考えさせられる番組があってもよいと常々思っていた。今作はナレーションなしで説明がなくても、子供に対する優しさや希望、地球に対する感謝の気持ちが映像から伝わってきた。
- 安藤忠雄さんの声と音楽とがほとんどかぶっていないような印象。そのため、とてもメリハリがあり、話している内容がはっきり聞き取ることができた。
- 中之島の「こども本の森」が完成するまでの過程がこの番組の柱になっているが、なぜ子どものためのこういう施設をつくるに至ったのかが、安藤さんへのインタビューをずっとつなげていくと見えてくる構成になっていたことは、小さな驚きだった。
安藤忠雄という人物、そして“安藤語録”の意図するものは
- 安藤忠雄さんの「家に籠もっていては駄目、本を読んで旅行することが大事」だということは、コロナで巣籠もりとかが言われているだけに、非常に心に響く。人が集まる場所をつくるのが建築家だと思うが、コロナで人が集まれていないというのが安藤さんの表情にも当惑として出ていたように思った。
- 子どもたちは、大人の都合を意に介さない、楽しそうに見える空間で自分を解放することに喜びを見出している。安藤さんは、そんな子どもに、何か自分の夢を託しているような気がする。「作品を一番分かってくれるのは、結局子ども。大人は全然理解してくれない」という思いもあって、中之島の子ども本の森を建てたのだと思う。
- 公共的な空間を設計されることが多い安藤忠雄さんが、コロナで人が集まることが否定されるような状況になったときにどう考えているのか。「もうお前ら考えろ」という感じで次世代に投げているのは、無責任なようにも取れるが、次世代を育てる場をこれだけ一生懸命つくってきた人なので許されるところもあるので、「お前ら考えろ」「次世代へ告ぐ」で本当に成り立っていたような気がした。
- 安藤忠雄さんは、次世代の子どもたちに対して強い期待感を持っているわけで、そういう思いを安藤語録というか、「生きていることと偏差値は違うんだ」とか、「生命力がない」とか、「自分で考えて自分で育てよ」あるいは「諦めの決断」みたいなことを矢継ぎ早に炸裂させていく。そういうものが、我々が今いる現状の一端を、建築と安藤語録によって何か受け取ることができたのではないか。
番組に望むこと
- バレエダンサーが出てくるが、何かの象徴として出てくるなら、あの場面でどうして出てきたのかが分からない。例えばその土地の出身のバレエダンサーなのか等、情報をわかりやすく書けばよかった。
- 寄附について。設計監理料だけを寄附しているのか、あるいは建築費は安藤忠雄が自分で集めて、建築して、それを大阪市に寄附したのかがわからない。ただ寄附というのはあまりにきれい事に過ぎる。テロップでもいいからはっきりしてもらったほうがよく分かったと思う。
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ナレーションは一切使わず、安藤忠雄さんの言動を中心に、子どもたちの表情をつないで最後まで見せた。この手法は、安藤忠雄というキャラクターと建築の表現がうまくできたと思うが、初めて見た人は、冒頭に少しの説明があったほうがよかった。
事業者側より
建築物という難しいものを、撮影でどう表現するかということの中で、光と影とか、季節感や時間、子どもの表情など、秀逸なカメラワークで迫ってくれたと思います。また、小型のドローンを駆使したりして、4Kの解像度でなければ表せない空気感、空間表現のようなものが確かにあると思っています。いろいろと違う撮り方を追求していく中で、カメラマン的な目線でいくと非常に頑張れた番組かと思います。これからもよろしくお願いいたします。
制作技術統括局長 松田 茂
事業者側より
今回、安藤忠雄さんを通じて様々なメッセージを、視聴者に伝えられたのではないかと思います。意見にもありましたが、今回ナレーションがないことが安藤さんの言葉をすごく強く伝えられた手法だったのではないかと思います。これは、2年間しっかり取材したからこそ、ナレーションなしで表現することができた、内容が詰まったものになったと感じています。この機会を今後に生かすべく、皆様からのご意見を参考に番組制作にあたりたいと考えております。
報道局番組報道部長 中村 隆郎
番組審議会に出席して
- 報道局報道センター プロデューサー
萩原 守 - この番組では、ノーナレ・象徴的なバレエシーン・オリジナル音楽…等々、スタッフが意欲的に取り組みました。一方で分かりにくい箇所が見る人のストレスとなって伝わらなくなるかも、との懸念もあり、視聴者の反応が特に気になる番組でした。審議会では、説明が少ない点を巡っても相反する様々な意見をいただき、スタイリッシュなものを目指して抑制的に作る難しさを痛感しつつも、方向性は間違っていなかったという手応えを感じました。これが視聴率に結びつけば良かったのに…と残念な思いもありますが、自身にとっても新たな発見や引き出しを増やす事にもつながり、貴重な機会となりました。
- 報道局報道映像部 カメラマン
樋口 耕平 - 映像作品の色合いが濃い番組であり、今回の安藤建築を被写体としたドキュメンタリーを発案した立場でもあるためこのたび出席させていただきました。この番組は「独特の雰囲気」と評された作品内容だけでなく、スタッフの座組や全編4K撮影・制作など、取り組みとしても当社では珍しい形のものです。取材を通して感じたことや表現したかったことが今回の手法でどのように伝わったかなど、各委員からの貴重なご意見は大変参考になりました。また映像の質感、カメラワークについて多くのご関心とご質問をお寄せいただき、テレビ番組における映像のあり方を考える上で、今後の大きな励みにもなりました。