番組審議会 議事録概要
『探偵・由利麟太郎』について審議
- 放送日時
- 2020年6月16日(火)21:00~22:09
- 個人視聴率
- 6月16日(火)
[関西]7.5% 占拠率(19.9%)
[関東]5.3% 占拠率(15.2%) - オブザーバー
- 制作局制作部 演出・プロデュース
木村 弥寿彦
参加者
委員 |
委員長上村洋行(司馬遼太郎記念館 館長 司馬遼太郎記念財団 理事長) 委員長代行難波功士(関西学院大学 社会学部 教授) (敬称略50音順) |
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リポート出席 |
金山順子(適格消費者団体 ひょうご消費者ネット 専務理事 消費生活アドバイザー) |
関西テレビ |
嘉納修治 代表取締役会長 |
7月9日に開催された第616回番組審議会では、火曜9時ドラマ「探偵・由利麟太郎」第1話(6月16日放送)について審議された。横溝正史原作、吉川晃司主演で京都を舞台に、関西テレビと東映京都撮影所がタッグを組んだ連続ドラマについて委員の皆様から様々なご意見をいただきました。
ドラマを視聴した感想
- 横溝作品の独特の世界観を壊さない映像の色合いが印象的で、事件現場のおどろおどろしい感じ、暗がりでの光の使い方、立ち昇るスモーク、いずれも最近のミステリードラマでは見かけなくなったシーンが多くあった。
- 必殺シリーズを思い出した。中村主水の藤田まことが吉川晃司でね。必殺は江戸時代に現代という想定を持ち込んだドラマで、あれはあれで十分面白かったんですけれども、その逆を行って、ここで居直ってよい作品に、面白い作品、視聴率の取れる作品にしようというふうな意図はよく分った。
- 舞台は京都。でも、登場人物は皆関東なまりでした。京都府警のスタッフも皆関東なまりでした。土足暮らしが日本では浮き上がるように、彼らの言葉も京都では浮き上がっていると思った。骨董屋さんの女主人公だけが関西なまりで、関西なまりはこのドラマで添え物なんだなということをかみしめた。
- このドラマは犯人探しが主眼なのか、それとも横溝ミステリーの世界観が主眼なのか、第1話を見ていて、それらが少し分かりにくかった。
- 推理物が好きなので、個人的にはもっと作ってほしいと思うが、こういった推理物って1話がキャラクターの関係性を表す部分がすごく多いと思うので、1話が一番つくるのが難しいのかなと感じてしまった。
- オール関西で取り組まれた作品なのでスタッフのみなさんの熱量も相当なものだったに違いありませんが、出演者の個性を生かしたい、原作の世界観も生かしたいと、あれもこれも盛り込み過ぎたところに無理が生じたのかもしれません。
- ドラマにどこまでリアリティを求めるかというのにこだわらないと割り切ってしまって、これは吉川晃司のためのドラマだと考えれば、長いコートだとか弓だとかも、志尊淳のちょっと目障りな演技だとか、田辺誠一のぼけた演技も許容範囲かなというふうに思った。
横溝正史原作のドラマについて
- 最初見た印象では、現代劇にするのではなく時代劇としてつくったほうがよかったのではと第一観で思いましたが、予算という話を聞いて、そこは理解出来た。しかし、松本清張、江戸川乱歩、横溝正史の原作は時代劇としてつくるしかないのではと感じながら見た。
- 横溝作品は矛盾だらけで、それは当然のことだと思いながらも、全体のトーンも雰囲気があまり伝わってこないし、警察の存在感も何か陳腐だし、殺人に至る動機も、暴力抑制のために超音波であるとか薬品を使ったりとかという実験も、どうもしっくりこなかった。
- 横溝正史ミステリ&ホラー大賞の選考委員をしていて、この由利麟太郎というのはテレビドラマですから、小説よりもっと緩いんですね。だからリアリティのなさをごちゃごちゃ言ってもそれは無粋であるというふうに僕は考えて、横溝正史という名前が出てきた時点で、このドラマは何でもありであろうというふうにまず考えて見た。本当にまあ突っ込みどころ満載のドラマで、でも、腹は立たん。笑いました。
時代設定について
- 時代設定が戦前を無理やり現代に持ってきたところに無理があるんではないかな。でも、ああいう古い大きな洋館が舞台で、戦前を全て設定してしまうと物すごい制作費がかかるので仕方がない。でも、横溝というものを現代に置き換えてこないことには、このドラマそのものが成り立たないから非常にプロデューサーは悩んだと思う。
- ゲームが出てくるので、現代の話にしてあることはわかるが、全体的なトーンとしては、戦前のようで、昭和中期のようで、平成のようでもあり、令和かなあ、と。時代がよくわからず、すっきりしなかった。
- この作品は金田一耕助の以前ですから、昭和10年か11年頃の世界、どんなふうに横溝正史さんのあやしげな状況が描かれるのか、と思っていました。ところが、見終わった後で、やはりどうも時代転換、それから矛盾点というものにすごく違和感を持ちました。
出演者や役柄について
- この作品、木村さんの吉川晃司愛がハンパないと感じました。実際、どのシーンのどのポーズも美しいです。衣装も立ち居振る舞いも隙がない。ドラマの内容よりもそちらに気を取られてしまいそうです。でも、それって作品的にはどうなんでしょう。
- 今回志尊さんが演じる助手役の三津木の役柄がすごく子供っぽ過ぎるように感じた。探偵物における助手役って結構事件の語り部的役割を担うことが多いですが、今回のドラマで三津木がどういった役柄を担当しているのかが正直よく分からなかった。
- 吉川晃司さんというのは「黒書院の六兵衛」などいい演技をなさる方で、ドラマに出てくると締まるので、俳優としてのファンでもあります。俳優さんも実にいい方々が出ておられるのに、何かこのドラマの中では浮いたような感じを受けてしまった。
演出や脚本・構成について
- 最初のほうで出たスーパーが、出演者の方の名前かなと思ったが、よくよく見ると役柄の名前だったので、分かりにくかった。もし名前を出すのであれば説明というか、誰々の息子とか、こういう役柄の人ですと説明をつけたほうが分かりやすいと思った。
- 今話題になっているドラマは再放送ドラマばかりですから、今回のドラマには期待をしていたが、時代を無理やり現代に持ってきたからなのか、横溝ミステリーにこだわったせいなのか、場面がポンポン飛んで分かりづらいし、展開に無理があるかなと思った。
- うまく表現できないのですが、ドラマって「間」というか、「ため」や「間合い」というか、そういうものが必要だと思います。それが今回のドラマに関しては急ぎ過ぎた印象を受けました。
- 冷蔵庫の中にいた人と、お屋敷に登場してきた人が、同一人物・瑠璃子だとわかるのに、少し時間がかかった。刺されたのは胸近くで重症だと思っていたからかもしれない。刺された位置と、腕を吊っていることが、直結するような工夫があればわかりやすかったのではないか。
- 途中からの展開が急で、見る側がそれについていけない場面がいくつかありました。ひとつは後半の瑠璃子と瑛一のやりとりのシーン。時間軸の行きつ戻りつがあって、どの時点のことなのかが今一つわかりませんでした。また、魁太少年が自殺したという事件も途中の経緯を省いているため、イマイチ納得できなかった。
- いろいろ回収されなかった伏線があるんじゃないかみたいなコメントも他の委員からあったと思いますけど、鉄くずのキューブの中から血が滴ったけど、あれ結局誰の血だったのかよく分からなかった。
- ミステリーの醍醐味は伏線回収にあると思います。今回の作品は、伏線はたくさん張ってあったはずなのに、結局回収しきれないままで終わってしまったために、後に残ったのはモヤモヤした思いでした。
番組に対する疑問点
- 主人公の探偵は京町家で暮らして、自分の居場所をリフォームして、家の中で靴をはいています。京町家で土足暮らし。まず、いないと思います。ドラマ制作のこれは一種確信犯だと思います。登場人物、主人公たちには土足生活を送らせてやろうと。その心は何なのかとお尋ねしたく思いました。
- 体育会弓道部の部長をやっていると、安全対策を本当に徹底していて、ちょっとでも事故が起こったら競技自体がなくなっちゃうんじゃないかという危機感を持ってみんな弓道界の人たちはやっている中で、あんな境内で、的外れたら誰に当たるか分からないところでやっていることが、えっと思いました。
- 黒川委員も言われたように、傷がまだ癒えてないのに簡単に細ひもでフィギュアを切ってしまう。それから、最後のところで延々と兄を締めつけ続け、由利探偵が説得をしていく場面、犯人が爆弾か拳銃でも持っておれば、それはよく分かるけれども、早く取り押さえたほうがいいんではないかという、見ている側としては矛盾というよりもイライラした感じがしてしまった。
ドラマの今後への期待感
- 恐らくこのドラマはアフターコロナ、ウィズコロナの時代のドラマづくりをどうするかというテーマを背負っているということもあると思いますので、これからぜひ頑張っていただきたい。
- 第1話は原作を読んだのが良くなかったのか、原作を読まずに見た昨日の4話はとても面白く、「次回はどうなるのかな」とワクワクしながら見ました。リアルのみを追求するドラマが多い中、リアルさがない分、由利麟太郎は「これからなのかな」というのが私の感想です。
- 戦前の探偵小説といいますか、エルキュール・ポワロにしても明智小五郎にしても、小説や映画になった場合には矛盾点がはらむものは当然として見るわけです。ただ、まあまあよかったなと思って見た作品は、時代背景がきちっと描かれ、その雰囲気があったものが多かった。その意味で、このドラマは現代に置き換えたがために、何か雰囲気が飛んだように感じた。
- 全てしゃあないなと。笑うしかなかったような作品です。でも、これはこれでよかったんじゃないかなと、かえって思いました。視聴率取るのが第一の目的ですから、どんな無理でも押し通していけば視聴者はそれなりに、ああ、そうですねというふうにして見てくれるのではないかなと思って。まあ何とも言い難い作品ですね。
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ハリウッドがしばしば日本を舞台にする映画もつくります。ところどころに日本語の人も添え物として出ています。でも、大筋は英語です。登場人物の日本人も英語です。あれと同じやなと思いました。今、東京と関西の力関係はそうなっているんだなと受け取りました。今はそういう時代ですよとこのドラマは全身で訴えかけているように思いました。私が子供だった頃には、在阪局はしばしば関西弁で押し通すテレビドラマを制作して、それをゴールデンタイムに全国へ流していた。今は時代が違い、関西なまり、京都弁はだんだんそういう時代を迎えていて、お笑い以外では死語になりつつあるのかなということを痛感させられました。
事業者側の返答
火曜21時、全国ネットで枠をいただきましてドラマを制作させていただいておりますが、東京一極集中が続いている中で、やっぱり関西でもドラマをつくるという制作文化を育てていかなければいけないかなと思い、今回企画に至りました。井上委員もおっしゃっていましたけれども、この三、四十年、東京一極が進み関西発のドラマをいかに全国ネットで全国の皆様に喜んでもらえるようにつくるというのが本当に課題だと思っております。今日皆さんにいただいた意見を参考にさせていただきながら、ぜひまた大阪発といいますか、関西発の連続ドラマをこれからもチャレンジさせていただけたらなと思っております。
制作局長 安藤和久
番組審議会に出席して
- 制作局 制作部 演出・プロデュース
木村 弥寿彦 - 昭和を代表するミステリー作家、横溝正史の名探偵シリーズをドラマ化するにあたり一番大きな課題の一つが時代設定だった。原作は戦前のものがほとんど、それも東京が舞台なので再現するには相当な予算が必要、制作者としては現代に置き換える作業は大変だと思ったが、逆によりクリエーティブなことが出来ると思い、由利麟太郎の現代版ドラマを制作した。しかし番審の皆様の意見を聞くと横溝正史のイメージもあり、現代版にすることによってストーリーに無理が生じたなどかなり厳しい意見を多数頂いた。原作の持つイメージをいかに体現するか、今後のドラマ制作の課題が一つ見えました。