- 第4章 表 現 >
- 4.さまざまな権利概念
- 4.さまざまな権利概念
(1)名誉権とプライバシー
名誉権とは「個人や団体が社会的名誉を侵害されない権利」で、社会的評価を低下させる行為は名誉毀損にあたります。プライバシーとは「私生活をみだりに公開されない権利」です。人それぞれに守られるべきプライバシーがあります。また尊重されるべき人格があります。それらに土足で踏み込むことは決して許されることではありません。
数度の委員会審議が行われ、委員会決定として著しくプライバシーの侵害があったとして「勧告」が出された。当該番組でお詫び放送を行い、企画、編集体制の見直しをした。
(BPO放送人権委員会決定 第28号 「バラエティー番組における人格権侵害の訴え」参照)
「あの話をしたのは私だ。無断で使った」との抗議。確認の結果、本人でないことが判明したが、電話盗聴の行為はプライバシーの侵害となるばかりか、有線電気通信法など通信関連の法に抵触する。
東京地裁は女性タレントAに対して賠償金の支払いを命ずる判決を出した。イニシャルトークであろうがなかろうが一般視聴者が、対象となっている人物を特定できるような情報は本人を名指ししているのと変わらない。
(2)肖像権
肖像権とは「何人もその承諾なしに、みだりにその容貌、姿態を撮影、公表されない権利」です。具体的には、撮影または公表が「受忍限度内(被害の程度が社会通念上がまんできるとされる範囲内)」と言えるかどうかによって判断されます。それだけに当事者の承諾なしに撮影し放送する際には、肖像権の侵害には充分な注意が必要です。
集団の撮影で顔が認識できる映像は必ずぼかす。雑踏や電車内での撮影では顔に寄らない。撮影の確認は必ずスタッフが取る。などの注意が必要である。
肖像権(パブリシティ権)は法で定められてはおらず、判例に基づくものであり、判例で認められたとしても、今回は「もっぱら」有名人の「顧客吸引力」を利用していないので当てはまらないと返答したが、相手との関係性を斟酌(しんしゃく)し、今後は報道、スポーツ以外の肖像利用について確認を得ることを約束した。
撮影・公表された人物が有名人の場合、肖像や氏名が持つ「顧客吸引力(顧客を商品などに引き付ける力)」から生じる経済的な利益や価値を他人に勝手に使用されない権利も肖像権の一種として認められています。この権利を「パブリシティ権」と呼びます。
番組内で単なる交友紹介のために写真を使用しただけでは、「もっぱら」著名人の「顧客吸引力を利用した」とはいえないので著名人のもつパブリシティ権を侵害したことにはならないと考えられますが、顧客吸引力を利用されたと主張し、肖像使用料を請求してくる人もいます。相手との関係性を考慮した上での対処が望まれます。

(3)期待権
企画が固まり、取材対象者に取材申し込みをする時点で、取材を受け入れた側は、その結果として制作・放送される番組やニュースに対してさまざまに「期待」をします。放送番組と「期待権」が司法の場で初めて争点となった裁判がありました。
「取材結果がどのように編集・使用されるかは、取材に応ずるか否かの決定の要因となり得る。特にドキュメンタリー番組または教養番組では、取材対象となった事実がどの範囲でどのように取り上げられるか、取材対象者の意見や活動がどのように反映されるかは取材される者の重大関心事だ。取材者の言動などにより取材対象者が期待を抱くのもやむを得ない特段の事情が認められるときは、編集の自由も一定の制約を受け、取材対象者の番組内容に対する期待と信頼が法的に保護されるべきだ」と東京高裁は判断した。
2008年6月、最高裁は「(取材協力者の)期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない」として、原告の主張を退ける逆転判決を下したものの、この裁判を通じて「期待権」が注目されることとなった。
この裁判では「期待権」とともに、いま一つ議論になった大きなテーマがありました。放送局における「内部的自由」の問題です。「期待権」は、取材対象者からメディア側に問いかけられた権利概念ですが、「内部的自由」はメディア内部の大きな課題です。この事例で、裁判にまで発展した「番組改変」とは、局側からする制作会社への改変要請に端を発しています。さらに局側の実情として、局上層から担当プロデューサーへ出された改変指示の妥当性が争点の一つとなりました。
BPOは放送人権委員会(当時BRC)が東京高裁判決に先立つ2003年3月に、放送倫理検証委員会が最高裁判決後の2009年4月にそれぞれ、NHK教育テレビETV2001「問われる戦時性暴力」に関して「決定」を示しています。
このうち「検証委第5号決定」では、決定書本文に続いて「資料」を掲示しています。「資料2業務命令と制作者の自由をめぐる論点の整理」44ページには「3.日本における議論」として関西テレビの以下の事例が紹介されています。
その例としては、関西テレビの場合がある。同社は2007年1月、『発掘!あるある大事典Ⅱ』の番組捏造が社会問題化したが、その検証のために設置した外部調査委員会は「番組制作の自由と内部統制システム構築の調和が強く求められる」とした上で、「倫理行動憲章の制定」「番組制作関係者による内部通報制度の確立」「良心に反する業務から番組制作者を守るため、番組制作現場からの救済の申し立てにも対応する『放送活性化』委員会の設置」を提言した。
これを受けて同社は、社内外関係者による再生委員会の検討を経て、第三者による放送活性化委員会を設置するとともに、「番組制作ガイドライン」をあらたに策定した。
放送活性化委員会は、同社の「番組制作に携わる者が、放送番組基準に沿わない、良心に反する業務を命じられた場合など、事実関係を調査し」、同社に対し「注意喚起・改善などを求め」ることができるとされ、番組制作ガイドラインも内部的自由を、メディア内部の「大きな課題」として位置づけている。