関西テレビ放送株式会社

 

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  2. 3.人権をまもり差別を助長しない表現
  • 3.人権をまもり差別を助長しない表現

気づかないうちに、その表現で、多くの人を傷つけていませんか。
その表現が視聴者の皆さんに不快感を与えていませんか。
社会的弱者に対しての気配りはしていますか。
単に言葉に気をつければ良いという問題ではありません。
放送人として、その表現を、多くの視聴者の皆さん、あるいは特定の人々がどう感じるか、その表現で心を痛める人はいないのか、と思いやる気持ちをもつことが重要です。
すべての国民は基本的人権の享有主体である、すべての国民は個人として尊重される、すべての国民は法の下において平等である、このように基本的人権は憲法で保障されています。一方で「表現の自由」という概念はもちろんありますが、放送人としては「基本的人権の尊重」が優先すべきだと認識すべきです。


(1)身体・病気への差別

身体的精神的疾患・障害を表現する際、その病気や障害を持つ方や家族など周囲の方々が不快や苦痛を感じないよう配慮すべきです。「用語マニュアル」などに依存するのではなく、その表現が「誰かを傷つけはしまいか」、懸命に思索することがプロの「表現者」の資格要件です。特に精神障害については誤解が少なくなく、障害者を侮蔑する表現は絶対に避けなければなりません。最新の医学的な傾向などを調べて、“病気の知識”を得ることが必要です。
深刻な病気を抱える患者や家族にとって、誤った認識による表現はいわれのない差別に繋がり、非常に傷つくものであり、安易に病名を例えに使うことは避けるべきです。


事例① 「自閉症」
生放送で、男性タレントの「近ごろ、自閉症気味やな」という発言に対して、福祉関係者および視聴者から「自閉症は語感からひきこもりに至る精神状態やうつ病と同じように思われがちだが、実は先天的な脳の発達障害であって、誤った考え方でとらえられている。表現に注意して欲しい」と抗議があった。

自閉症は先天的な脳に機能障害。以前はひきこもりなどの状況を表現する際に「自閉症で…」や「自閉症気味で…」などと表現する人もいましたが、現在では徐々に使用されないようにはなってきています。しかし今でも時々タレントなどが無意識に使用することがあり、削除しなければならない場合もあります。


資料 ドラマ『僕の歩く道』
関西テレビ制作ドラマ『僕の歩く道』は、「自閉症」理解の困難さをテーマの中心においた作品でした。ドラマの制作においては、実際に自閉症の方と家族への取材を行うとともに、企画・シナリオハンティング段階からエンディングに至るまで、医事科学監修を専門家にお願いしました。
その結果このドラマは「障害者問題」を単純にカテゴライズした作品ではなく、「人間の普遍性」に到達したドラマとして評価され、多くの賞を受賞しました。
表現のプロフェッショナル、プロの表現者を目指す私たちが、価値ある創造物を社会に送り出す端緒となるかもしれない出会いが、さまざまな領域にあります。


事例② 「妄想」
妄想を語ってネタにするお笑いタレントに対して、「救急車呼んでるの」という司会者のつっこみの部分をカット。
「妄想」は精神障害者(統合失調症など)の特徴的症状で、救急車のくだりは患者と家族には苛酷な表現であると判断。


事例③ 口唇口蓋裂
バラエティ番組で、出演者が口唇口蓋裂の子供の発音をまねていると思われるしぐさがあって、字幕で正しい発音に直していた。「障害者を笑いものにしている。障害者に対する冒涜だ」との抗議があった。
侮辱的表現は一切避けるべき。


事例④ 目の不自由な人と落語
情報番組で、落語「犬の目玉」を放送後、片目を失明している家族から抗議。患者の目玉をくりぬいて犬にうっかり食べさせた眼科医が犬の目玉を患者の目に入れるという内容の落語で、目の不自由な人に対する配慮に欠けた放送で差し控えるべき内容だ。
古典落語の芸術性をどう考えるかという理念も一方であるが、十分に注意する必要がある。


事例⑤ ブラインドタッチ
バラエティ番組内のクイズで、「パソコンのキーボードを見ないで打つことを何と言うか」との問題に対して、正解を「ブラインドタッチ」と言っていた。
現在では、一般に広く使われている言葉だが放送では視覚障害者への配盧からブラインドは使わず、「タッチタイピング」と言うべきである。

このほか「糖尿病」にもアルコールの過剰な摂取や栄養価の高い食物の摂りすぎによる病気との認識がありますが、糖尿病には2種類あり、生活習慣の影響による糖尿病は2型糖尿病に分類されます。自己免疫性疾患で、多くは10代で発病する糖尿病は1型糖尿病に分類され、2型と混同して扱われ傷つく子供や保護者が多くいる現状を制作者は認識する必要があります。
難治性の疾患の病名告知は、さまざまな側面を考えなければなりません。


(2)自殺

国境を越えて深刻な問題となっている自殺者に対する表現にも十分な配慮が必要です。1999年には世界保健機構(WHO)が「自殺予防 メディア関係者のための手引き」を発行し、各メディアに自殺予防の支援を求めました。自殺者が年間3万人を超えるわが国でも2006年6月に「自殺対策基本法」が公布され、翌年6月に「自殺総合対策大綱」が閣議決定。これを受け、日本民間放送連盟は自殺を未然に防ぐための自主的な指針を策定・実践しています。
第3章−4−(5)「自殺」参照)


(3)出自・境遇などへの差別

職業と同様に出自や境遇に対して差別した表現は避けるべきです。差別的な言葉に気をつけることはもちろんですが、人は法のもとですべて平等であるという精神を常にもっていれば、人を見下したり、蔑視する表現はできないはずです。


事例① 犬の里親
ドラマの中で「犬の里親募集」という張り紙が出てくるシーンに対してある地域の里親会の会員から抗議。
「里親を犬、猫の引き取り手を探す場合に使うと、里子の子供たちが自分たちは犬猫なみかと悲しむ」という内容で、以降、人間以外の場合は里親という表現はしないと回答した。


事例② 戸籍を調べるシーン
主人公が社員の戸籍謄本を調べるドラマのシーンに対して、厳重な抗議があった。
後日放送の当該ドラマ内で「こうした書類を人事当局が社員に要求するのは行政指導に反する……」というせりふを挿入した。戸籍を調べる行為は、プライバシーの重大な侵害であり違法である。


事例③ 結婚差別を助長するせりふ
「お前もいろいろ条件出しとるんだろう、学歴とか家柄とか」というドラマのせりふは結婚差別を助長する。これを明確に否定するせりふなどの表現が必要。

(4)性差別

男女が平等であることを尊重することはもちろんです。「男女雇用機会均等法」の制定などで、女性の社会進出など社会状況は著しく変化して「性同一性障害」に対する理解も進み、以前と同じ感覚で女性、男性のイメージを画一的に認識できない時代です。また、ゲイやレズビアンなどのセクシャル・マイノリティの人々についても正しい認識が必要です。


事例① 女性蔑視
深夜番組で出演者が「生理中の女性は舌の感覚がおかしくなるので、シェフは男がほとんどだ」と発言。
科学的根拠もなく、女性蔑視にあたるとして削除した。


事例② 同性愛者を差別視
生放送の情報番組で、「昔、俺はホモだったが治った」とタレントが発言。
これは「ホモ」という言葉の使い方はホモセクシャルと言い換えるべきだが、それ以上に同性愛者を差別視したことが問題で、番組のなかでお詫びした。


事例③ オカマのものまね
情報番組の中の出演者がカードをめくってそのものまねをすると食事ができるというゲームで、「20代のオカマ」「30代のオカマ」という出題があり、出演者がそのまねをしている。
「オカマ」という言葉は、男性の同性愛者が自称したり、他人が揶揄気味に指したりするときに使用される。「オカマ」のものまねによって、見ている人が傷つくことも考えられる。絶対に使ってはいけないとされる言葉ではないが、生番組やトークのなかで偶発的に出て来るのならともかく、台本に書かれていたり、今回のように仕込みの一部として使ったりするのは勧められない。
番組担当者の判断で当該部分を全面カットした。

(5)人種差別・民族差別

世界人権宣言にも定められているように、すべての人は人種、皮膚の色、言語、宗教、などによって差別を受けることは許されることではありません。


事例 日本は単一民族
外国人タレントの「アメリカは多民族国家だ」という発言に対する、司会者の「日本は島国で、単一民族」という内容の発言に対して、アイヌ民族団体の会員から抗議が来た。
団体とも話し合い、事実と異なるので訂正してお詫びしますという放送を行った。

(6)児童および青少年への配慮

民放連とNHKが定めた「放送倫理基本綱領」には、以下のように記載されています。


資料① 放送倫理基本綱領より
放送は、いまや国民にとって最も身近なメディアであり、その社会的影響力はきわめて大きい。われわれは、このことを自覚し、放送が国民生活、とりわけ児童・青少年および家庭に与える影響を考慮して、新しい世代の育成に貢献するとともに、社会生活に役立つ情報と健全な娯楽を提供し、国民の生活を豊かにするようつとめる。
1996(平成8)年9月19日制定

また、放送基準では第3章を「児童および青少年への配慮」として、以下の条文を定めています。


資料② 放送基準第3章「児童および青少年への配慮」
(15)児童および青少年の人格形成に貢献し、良い習慣、責任感、正しい勇気などの精神を尊重させるように配慮する。
(16)児童向け番組は、健全な社会通念に基づき、児童の品性を損なうような言葉や表現は避けなければならない。
(17)児童向け番組で、悪徳行為・残忍・陰惨などの場面を取り扱う時は、児童の気持ちを過度に刺激したり傷つけたりしないように配慮する。
(18)放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分、配慮する。
(19)武力や暴力を表現する時は、青少年に対する影響を考慮しなければならない。
(20)催眠術、心霊術などを取り扱う場合は、児童および青少年に安易な模倣をさせないよう特に注意する。
(21)児童を出演させる場合には、児童としてふさわしくないことはさせない。特に報酬または賞品を伴う児童参加番組においては、過度に射幸心を起こさせてはならない。
(22)未成年の喫煙、飲酒を肯定するような取り扱いはしない。

暴力やいじめに繋がる表現、性表現などに関する内容については細心の注意が求められます。放送時間帯によって児童・青少年の視聴の程度や態様が異なりますが、生活スタイルの多様化や録画視聴が増えている現況では、深夜帯でも十分に配慮する必要はあります。制作者は自分の家族、特に子供に胸を張って見せられる内容なのか、十分に自問することが望まれます。


事例① リアクション芸・人間しゃぶしゃぶ
リアクション芸として、芸人たちが過酷な体験に挑戦する内容。放送中から苦情の電話やメールが殺到した。蛇にかまれるシーンや「人間しゃぶしゃぶ」なる煮えたぎったお湯の上でクレーンに人を吊るすシーンがあった。
視聴者からは、「凶悪な事件が多いなか、不快な思いを与えるもので、もっと考えて放送すべき」、「子どもに見せられない。残酷で危険が伴う」等の意見があった。


事例② 舞妓さんは未成年
朝の生活情報番組で京都からの生中継コーナーにて、タレントが舞妓さんとビールを飲んでいた。「舞妓さんなら公共の場でビールを飲んでいいの? まだ未成年でしょ?」と視聴者から指摘があった。
事実確認したところ、未成年と判明。番組プロデューサーはご指摘いただいた方に謝罪の電話を入れた。


事例③ 洗濯機に入った子どもの写真
情報番組の写真紹介のコーナーで、子どもが洗濯機の中に入っている写真を紹介。「洗濯機に子供を入れることが危険だという認識はないのか」とクレームが入る。放送中、出演者から「良い子の皆さんは真似しないでね。中でピッと(ボタンを)押したら危ないですから」とのフォローはあったものの、指摘どおり危険と思われるので、番組終了後の全体会議で注意喚起した。
変わった構図なら採用されると結果として視聴者をあおってしまう可能性もある。制作サイドに一定の常識が求められている。

生放送のなかで視聴者に注意喚起を促すことはできます。収録の場合、「良い子はまねをしないように」とテロップを入れることはありますが、安易に多用してはいけません。企画段階から十分な配慮を検討すべきです。

BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)は、放送と青少年の関わり方や、放送が青少年に与える影響に関する視聴者の意見を審議することなどを通じて、青少年が視聴する放送番組の向上を目指しています。これまでに青少年委員会は「見解」や「堤言」を示していますので番組制作の参考としてください。
(BPO青少年委員会「『見解』『提言』などについて」参照)