関西テレビ放送株式会社

 

  1. 第3章 報道・取材 >
  2. 4.実名か 匿名か
  • 4.実名か 匿名か

個人情報保護法の施行以来、捜査当局などから事件・事故の当事者名が匿名で発表されるケースが増えています。しかし、事実を正確に把握し報道していく上で、実名による取材は大前提です。ただし、実名で「取材」することと「報道」することは別問題です。実名報道と匿名報道のどちらがそのケースに適しているかは関西テレビが責任をもって判断しなくてはなりません。


(1)少年事件

少年法61条は罪を犯した少年について、「氏名・年齢・職業・住居・容ぼうなどにより、その者が当該事件の本人と推知することができるような記事、または写真を新聞紙その他出版物に掲載してはならない。」と定めています。
少年法の精神を尊重し、事件当時20歳未満の容疑者については原則として氏名、住所、学校名、勤務先などを匿名にします。また保護者の氏名や住所、勤務先なども同様です。映像も、本人の顔や自宅、学校、勤務先などを映像処理するなどして、特定できないよう配慮しなくてはなりません。
少年審判や刑事裁判の途中で20歳を超えても、事件当時少年であったならば、原則として匿名とします。
ただし、凶悪な事件を起こした未成年者が逃走中で、さらに凶悪な事件を引き起こす恐れがある場合には、例外として少年の氏名や顔写真を公開することができます。
第4章−2−(1)「モザイク・ぼかし」参照)


事例 山口県光市母子殺害事件
犯行当時(1999年4月)18歳だった元少年に対し、最高裁が死刑判決を言い渡したことに伴い、FNNでは元少年を実名報道に切り替えた。
それまでは少年法の趣旨に沿って、更生や社会復帰の可能性に配慮し、匿名で報道してきたが、死刑が確定することで社会復帰後の更生の可能性がなくなったこと、死刑執行は重大な国家権力の行使であること、また事件の重大性などを総合的に判断し、実名報道に切り替えた。

(2)精神障害者

刑法39条は「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」と定めています。
容疑者について、精神障害の疑いがあり刑事責任能力がないと判断される場合は匿名にします。その場合は匿名とする理由を視聴者に理解してもらうため、容疑者の精神状態を示す犯行状況や捜査当局の見解などを報道します。
実名で報道した容疑者が、その後の鑑定や裁判の判決で「心神喪失下の犯行」と認定された場合は匿名に切り替えます。
ただし、精神障害の疑いがある容疑者が逃走中で、さらに凶悪な事件を引き起こす恐れがある場合、実名にすることができます。また社会に大きな衝撃を与えた犯罪についても実名にすることができます。


事例 大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件
事件発生(2001年6月)後の早い段階で、関西テレビは容疑者を実名で報道した。初期の取材では、容疑者の精神障害の通院歴や治療歴など、さまざまな不確定な断片情報が飛び交った。
関西テレビが実名報道を早期に判断した理由の一つが、これほどの凶悪犯罪の容疑者を、精神障害を理由に匿名とすることは、予断と差別に苦悩している患者や障害者の苦悩を倍加させ、偏見を助長することに繋がるかもしれないという深刻な懸念だった。容疑者を匿名化することで憶測を招き、事件の不可解さに恐怖している一般感情を誤って誘導してはならない。意図的ではないにしろ、「精神疾患」「精神障害」(近時の「発達障害」なども)と犯罪を、結果的に結びつけてしまうような表現は、絶対にあってはならない。
(第3章−2「被害者取材」参照)

(3)性犯罪被害者

性犯罪の被害者については被害感情やその後の生活などを考慮して匿名とし、被害者が特定できないよう配慮する必要があります。ただし、性犯罪の被害者が死亡した場合は、実名にする場合もあります。
また、性犯罪の被害者やその遺族が、自ら実名報道を望んだ場合や被害の実情の公表を望んだ場合には、実名にする場合があります。


(4)詐欺等の被害者

詐欺・脅迫・恐喝の被害者は匿名にすることがあります。ただし金融機関や公的機関、著名人は原則として実名とします。


(5)自殺

自殺に関しては、一般私人の自殺は原則匿名とします。
心中の場合原則匿名ですが、自殺する意思のない家族等を巻き込んだ無理心中の場合は実名にすることもあります。
著名人、容疑者、受刑者などその人物が自殺したことにニュース性がある場合は実名とします。
いじめによる児童の自殺など社会に衝撃を与えた事案については、遺族の意思を確認の上、実名とする場合もあります。


(6)公人

行政機関や捜査当局など公権力の行使に関わる「公人」が適正にその力を行使しているかチェックする役割をメディアは担っています。その役割を果たすためには実名による報道・取材は欠かせず、一般人よりも実名報道の必要性は高いといえます。
逮捕や強制捜査に至っていなくても、公的な人物に対する疑惑や捜査機関の聴取は、実名で報道する場合もあります。
公人の業務に関する告訴・告発を報道する際は、被告訴人を実名で表現した上で、反論を取材して報道します。


(7)任意捜査・書類送検

参考人などの立場で任意の聴取を受けた人物については原則匿名とします。
書類送検された人物については、罪名や被害の程度、容疑者の社会的立場などを考慮して実名か匿名か判断します。実名の場合、「容疑者」もしくは「肩書き」をつける必要があります。


(8)無罪判決

無罪判決を受けた被告人については、判決が確定するまでは原則実名として「被告」をつけます。


(9)感染症

感染症やHIV患者は、本人の意思で実名を望んだ場合以外は匿名とします。


事例 神戸エイズプライバシー訴訟
1987年1月、旧厚生省が「日本人で初めてのエイズ患者が神戸市で確認された」と発表をした。3日後にこの女性患者が死亡するとマスコミは身元の割り出しに殺到し、一部の週刊誌は、実家や葬式まで乱入し実名や写真を盗み撮りして掲載した。
患者の名誉やプライバシーが侵害されたとの遺族の訴えに対して1988年、大阪地裁は「死亡によってプライバシーや名誉、肖像権・人格権も消滅する」としながらも報道が遺族の「死者に対する敬愛思慕の情を著しく侵害した」と損害賠償を命じた。

(10)「匿名希望」の取り扱い

被害者やその家族から匿名の希望が伝えられたときは真摯に検討し、関西テレビの責任において匿名とするか実名とするか判断します。

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