関西テレビ放送株式会社

 

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  • 1.事前取材・リサーチ

(1)インターネットの便利さと危険性

最近、リサーチの多くの部分を、スタッフはインターネットに頼っていることが多いようです。しかし、インターネットの情報がすべて正しいとは限りません。
また『マリファナの育て方』や『爆弾の作り方』等非合法なことまで、インターネットによる情報収集が可能な時代です。インターネットには規制がないといっても過言ではない、インターネットで入手できる情報は世間で認知されている事実や常識とは異なるということを大前提にしてください。


資料 BPO放送倫理検証委員会・委員会決定第12号
    <情報番組バラエティー2番組3事案に対する意見>
(2)「便利」の落とし穴にはまらないで リサーチから出演者決定まで
今回の2番組は、いずれも出演者決定に際して、インターネットを使ったリサーチが安易、少しキツい言い方をすれば「いいかげん」だった。
インターネットは確かに「便利」で、番組の企画を立てたり出演者をきめたりすることをずっと楽にしてくれる。ふつうなら3日かかるリサーチも、ネットを使えば一晩ですむことだってあるだろう。
でも、スピードがアップすると、そのぶん危険も増してしまう。自動車の運転と同じだ。
実際、インターネットに出ている情報には不確かなものも多いことは、みんなよくわかっているはずだ。たとえバラエティー番組でも、ロケをおこなって情報を見せるときにはウラ取りをしなくてはいけない。これも、テレビの世界で働く人なら誰だって知っているだろう。
でも、今回の2番組では、それがきちんとできていたとは言えない。インターネットの「便利」さに慣れすぎたのだろうか。だから情報の扱いが「いいかげん」になってしまったのだろうか。
インターネットは引用やリツイートであふれかえっている。その中から正しい情報を選り分けていくのは大変だろう。でも、そこを「いいかげん」にやってしまうと、きみのつくるテレビ番組が、誤った情報や不確かな情報を「拡散」してしまいかねない。
気をつけよう。慎重にいこうよ。ほんとうに。  (別冊「若きTV制作者への手紙」より)

事例 「発掘!あるある大事典Ⅱ」納豆ダイエット編
当初、調べていた大豆に含まれる成分(βコングリシニン)でダイエット効果を説明しようとしていたが、取材先から断られ変更することになった。次に新たな成分(DHEA)の情報を他番組より入手し、すぐにインターネットで<DHEA・やせる>で検索したところ、アメリカの大学の研究に行き当たった。本番収録までの時間は迫り、研究内容の詳細を調べたり分析をすることも不十分ななか、制作する側にとって有利な一部の情報を頼りに外国人の大学研究者にインタビュー取材を申し込んだが、思うような取材ができなかった。

(2)雑誌などのネタには怪しい噂・伝聞も含まれる

また、活字メディアには規制がありません。表現の自由はテレビ媒体とは異なるレベルのものです。
名誉毀損であるとか、プライバシーの侵害であるとか、差別の表現であるとか、記事内容の真偽や正当性が法廷で争われることもままあります。出版社は常に係争中の案件をたくさん抱えている状態になっています。電波法や放送法の規制を受けるテレビはそうではないという実情を改めて認識しておいてください。
つまり、週刊誌のネタ(噂)を鵜呑みにして一般に認識されている事実だととらえないでしっかり吟味してください。
また事実だとしても、周辺情報も深く調べることが大事です。


(3)リサーチまかせにしない

リサーチャーは基本的に前述したような情報源を頼りにネタ探しをしています。したがって、上がってきたネタは、採用にあたって、ディレクターがもう一度自分で裏づけを取る必要があることを忘れないでください。くれぐれもトラブルがあったときに、リサーチャーが調べたことだと責任を押しつけるような形になってはいけません。


事例① 箕面サル事件
箕面の滝近くにとても多く生息する「箕面のサル」。新緑や紅葉の季節など、滝を訪れる観光客に襲いかかったり悪戯したりとやりたい放題でその凶暴さが特に話題になっていた時期のこと。対策に苦慮していた人々に朗報!と、ある夕刊紙の記事になったのが「野生のサルに音楽を聞かせるとおとなしくなる……!?」という報告。とりわけ、阪神タイガース絶好調だったその年は、なぜか「六甲おろし」を聞かせるととたんにコロリと静かになり一番沈静化に効果がある?!という超面白データ。
「これは面白い!」と記事に飛び付き、十分な周辺リサーチを怠ったままロケに出発。取材を終え無事放送も終了したのだが、ここで大問題発生。

【問題1】 箕面の山に生息する野生サルは天然記念物である。
テレビ取材については文化庁および箕面市教育委員会の許可が必要である。
【問題2】 本来リサーチ段階で「許可」について認識するはずであるが、
会議室・分科会の誰もそこに気がつかずにスルーしてしまっている。
結局、放送後、箕面市教育委員会の指摘があるまで気がつかなかった。
【問題3】 「カンテレさんこれで2回目だよ!」 極めて短い期間で違う番組で同じミスを繰り返していた。
セクションにとらわれず事例の情報共有が不可欠である。

事例② 商品紹介は慎重に
洗濯機に入れるだけで、半永久的に洗剤を節約できるという便利商品を番組内で紹介したところ、以前、効果の有無が話題になった商品との指摘があった。国民生活センターの商品テストでも「効果なし」などの結果が出ていたという。

事例③ よく使われる言葉だが…
番組内のお店紹介で、お店の説明のままに食材は「無農薬野菜」と表示したところ、JAS法に違反する表記との指摘があった。2004年4月施行の農林水産省のガイドラインで「無農薬栽培農産物」から「特別栽培農産物」へ名称変更されている。 (第4章−5「表現上留意するべきその他の事例」参照)

(4)安全は何重にも確認する

番組で紹介した事例を視聴者が実践することは決して少なくありません。その際にトラブルが発生したり、ケガを負わせたりしてしまう可能性があります。放送の最終責任は制作者サイドにあることから、そういった危険性を考慮して事前に検証を行い、番組内で注意を促すなど十分な対策を講じなければならないのですが、実際にはそれでも事故をゼロにすることはできません。多彩な情報を紹介するバラエティ番組などでは、多面的な確認を重ねることを怠らないとともに、こうした現実を肝に銘じておくことが重要でしょう。


事例① 温泉卵が電子レンジで破裂
情報バラエティ番組で、電子レンジで卵を温め、温泉卵を作る料理レシピを紹介したところ、卵が破裂して視聴者が火傷を負ったとの苦情がきた。番組中には、電子レンジにかける分数などの表示をしていた上、ロケ現場でも同様の方法で調理をしていたが問題はなかった。番組担当者は弁護士と相談の上、本人に謝罪するなどを行った。
2年後、別の情報番組で同様の電子レンジを使用しての温泉卵の作り方を紹介。その際には、卵が爆発する可能性があるので揺らさないようにとの注意喚起のスーパーを入れての放送を行ったが、放送後、火傷したとの視聴者からの苦情があった。
レンジを使用しての卵の料理については危険度が高く、レンジを使うことで卵が容易に爆発するとの認識を制作現場スタッフが共有する必要がある。ただ安易に「取り扱わない」とすることはタブー視に繋がるだけに「取扱注意」としたい。

事例② 伝統的郷土料理の罠
バラエティ番組で料理店を訪問、ハコフグの料理を紹介した。その際、ハコフグは肝も食用が可と放送した。取材の際に店主にフグの調理師免許所持の確認も行い、専門家である店主に確認を取っての放送内容だったが、実際には厚生労働省はフグはすべての種類において肝を商用に提供することは不可であるとの指導を行っており、これは間違いであった。
また別のバラエティ番組で山菜採りを紹介し、食用と紹介した植物が間違っていたことが視聴者からの指摘で判明した。このロケの際には、食用の山菜を紹介した本も出版している大学教授に同行してもらい確認もとっているにもかかわらずこういった結果となった。

(5)科学番組ということに限定されるわけではない!

私たちが専門外のことを扱うことは、テレビのテーマではしばしばあります。そういったテーマを与えられたとき、専門家の知識を借りることになります。テレビは専門家の難解な説明を視聴者の皆さんにわかりやすく伝えねばなりません。この部分は実に番組のデリケートな部分です。「わかりやすく」を錦の御旗に「勝手な解釈」を与えることは完全なルール違反です。
わかりやすく表現するためにまず、自分がそのテーマの専門家の説明を完全に理解できるというハードルを越えてください。