- 第2章 制作・演出 >
- 1.事前取材・リサーチ
- 1.事前取材・リサーチ
(1)インターネットの便利さと危険性
最近、リサーチの多くの部分を、スタッフはインターネットに頼っていることが多いようです。しかし、インターネットの情報がすべて正しいとは限りません。
また『マリファナの育て方』や『爆弾の作り方』等非合法なことまで、インターネットによる情報収集が可能な時代です。インターネットには規制がないといっても過言ではない、インターネットで入手できる情報は世間で認知されている事実や常識とは異なるということを大前提にしてください。
<情報番組バラエティー2番組3事案に対する意見>
今回の2番組は、いずれも出演者決定に際して、インターネットを使ったリサーチが安易、少しキツい言い方をすれば「いいかげん」だった。
インターネットは確かに「便利」で、番組の企画を立てたり出演者をきめたりすることをずっと楽にしてくれる。ふつうなら3日かかるリサーチも、ネットを使えば一晩ですむことだってあるだろう。
でも、スピードがアップすると、そのぶん危険も増してしまう。自動車の運転と同じだ。
実際、インターネットに出ている情報には不確かなものも多いことは、みんなよくわかっているはずだ。たとえバラエティー番組でも、ロケをおこなって情報を見せるときにはウラ取りをしなくてはいけない。これも、テレビの世界で働く人なら誰だって知っているだろう。
でも、今回の2番組では、それがきちんとできていたとは言えない。インターネットの「便利」さに慣れすぎたのだろうか。だから情報の扱いが「いいかげん」になってしまったのだろうか。
インターネットは引用やリツイートであふれかえっている。その中から正しい情報を選り分けていくのは大変だろう。でも、そこを「いいかげん」にやってしまうと、きみのつくるテレビ番組が、誤った情報や不確かな情報を「拡散」してしまいかねない。
気をつけよう。慎重にいこうよ。ほんとうに。 (別冊「若きTV制作者への手紙」より)
(2)雑誌などのネタには怪しい噂・伝聞も含まれる
また、活字メディアには規制がありません。表現の自由はテレビ媒体とは異なるレベルのものです。
名誉毀損であるとか、プライバシーの侵害であるとか、差別の表現であるとか、記事内容の真偽や正当性が法廷で争われることもままあります。出版社は常に係争中の案件をたくさん抱えている状態になっています。電波法や放送法の規制を受けるテレビはそうではないという実情を改めて認識しておいてください。
つまり、週刊誌のネタ(噂)を鵜呑みにして一般に認識されている事実だととらえないでしっかり吟味してください。
また事実だとしても、周辺情報も深く調べることが大事です。
(3)リサーチまかせにしない
リサーチャーは基本的に前述したような情報源を頼りにネタ探しをしています。したがって、上がってきたネタは、採用にあたって、ディレクターがもう一度自分で裏づけを取る必要があることを忘れないでください。くれぐれもトラブルがあったときに、リサーチャーが調べたことだと責任を押しつけるような形になってはいけません。
「これは面白い!」と記事に飛び付き、十分な周辺リサーチを怠ったままロケに出発。取材を終え無事放送も終了したのだが、ここで大問題発生。
【問題1】 | 箕面の山に生息する野生サルは天然記念物である。 テレビ取材については文化庁および箕面市教育委員会の許可が必要である。 |
【問題2】 | 本来リサーチ段階で「許可」について認識するはずであるが、 会議室・分科会の誰もそこに気がつかずにスルーしてしまっている。 結局、放送後、箕面市教育委員会の指摘があるまで気がつかなかった。 |
【問題3】 | 「カンテレさんこれで2回目だよ!」
極めて短い期間で違う番組で同じミスを繰り返していた。 セクションにとらわれず事例の情報共有が不可欠である。 |
(4)安全は何重にも確認する
番組で紹介した事例を視聴者が実践することは決して少なくありません。その際にトラブルが発生したり、ケガを負わせたりしてしまう可能性があります。放送の最終責任は制作者サイドにあることから、そういった危険性を考慮して事前に検証を行い、番組内で注意を促すなど十分な対策を講じなければならないのですが、実際にはそれでも事故をゼロにすることはできません。多彩な情報を紹介するバラエティ番組などでは、多面的な確認を重ねることを怠らないとともに、こうした現実を肝に銘じておくことが重要でしょう。
2年後、別の情報番組で同様の電子レンジを使用しての温泉卵の作り方を紹介。その際には、卵が爆発する可能性があるので揺らさないようにとの注意喚起のスーパーを入れての放送を行ったが、放送後、火傷したとの視聴者からの苦情があった。
レンジを使用しての卵の料理については危険度が高く、レンジを使うことで卵が容易に爆発するとの認識を制作現場スタッフが共有する必要がある。ただ安易に「取り扱わない」とすることはタブー視に繋がるだけに「取扱注意」としたい。
また別のバラエティ番組で山菜採りを紹介し、食用と紹介した植物が間違っていたことが視聴者からの指摘で判明した。このロケの際には、食用の山菜を紹介した本も出版している大学教授に同行してもらい確認もとっているにもかかわらずこういった結果となった。
(5)科学番組ということに限定されるわけではない!
私たちが専門外のことを扱うことは、テレビのテーマではしばしばあります。そういったテーマを与えられたとき、専門家の知識を借りることになります。テレビは専門家の難解な説明を視聴者の皆さんにわかりやすく伝えねばなりません。この部分は実に番組のデリケートな部分です。「わかりやすく」を錦の御旗に「勝手な解釈」を与えることは完全なルール違反です。
わかりやすく表現するためにまず、自分がそのテーマの専門家の説明を完全に理解できるというハードルを越えてください。