開催内容
高知県外では半世紀ぶりの大規模展
謎の天才絵師とも呼ばれる土佐の絵師・金蔵は、幕末から明治初期にかけて数多くの芝居絵屏風などを残し、「絵金さん」の愛称で、地元高知で長年親しまれてきました。同時代のどの絵師とも異なる画風で描かれた屏風絵は、今も変わらず夏祭りの数日間、高知各所の神社等で飾られ、闇の中に蝋燭の灯りで浮かび上がるおどろおどろしい芝居の場面は、見るものに鮮烈な印象を残しています。


1966年に雑誌『太陽』で特集されて以来、東京、関西で展覧会が開催され、映画、舞台、小説といった様々なジャンルで取り上げられるなど、1970年前後には一大ブームとなりましたが、絵金の大規模な展覧会は、この半世紀ほど高知県外では開催されてきませんでした。今回は、幕末の土佐に生き、異彩を放つ屏風絵・絵馬提灯などを残した「絵金」の類稀なる個性と、その魅力について、代表作をはじめ約100点の作品により紹介します。
展示構成
[第1章]絵金の芝居絵屏風
2013年に絵金蔵運営委員会が発行した報告書によると、約200点の芝居絵屏風類が高知県下に現存しており、その多くが二曲一隻の形態で、枠貼、額装の作品が少数含まれています。神社の夏祭りで使用されてきたため、一部が美術館、博物館に収蔵されている他は、神社、公民館、氏子たちによる自治会、町内会などにより現在も管理されています。
絵金が亡くなった明治9年(1876)以降も絵金の芝居絵の文化は継承され、昭和に入ってからも夏祭りのために芝居絵屏風を新たに作ったと伝えられています。そのため、残された屏風の画風には、絵金風ながらも弟子や孫弟子たちの様々な個性が見られます。本章では、絵金の基準作・最高傑作として名高い、香南市赤岡町の4つの地区が所蔵(絵金蔵所管)する芝居絵屏風を展示します。これらの屏風は、毎年7月14日、15日の須留田八幡宮神祭と7月第3土・日曜日の土佐赤岡絵金祭りでは、商店街の軒下に飾られています。
また、この章では、御用絵師であった絵金らしい、故事人物を狩野派の画風で描いた作品の他、芝居の物語や年中行事の絵巻、安政1年(1854)に土佐を襲った大震災を描いた画帖など、芝居絵屏風以外の多様な作品も紹介します。

二曲一隻屏風、紙本彩色
香南市赤岡町本町二区蔵
※後期展示(5/23~6/18)

二曲一隻屏風、紙本彩色
香南市赤岡町本町二区蔵
※後期展示(5/23~6/18)

二曲一隻屏風、紙本彩色
香南市赤岡町本町一区蔵
※前期展示(4/22~5/21)
[第2章]高知の夏祭り
絵金の芝居絵屏風を神社の夏祭りに飾る風習がいつ頃始まったかは定かではありませんが、安政5年(1858)の年記のある屏風の保存箱が確認されており、残された屏風の数からみても江戸時代末頃から相当流行したと考えられます。現在、約10か所の神社で、昔ながらに屏風を絵馬台(台提灯)に飾る、絵金のある夏祭りの風景を見ることができますが、運営する氏子たちの高齢化や、屏風の状態の劣化などの理由により、年々減少しています。
毎年7月24日の高知市朝倉・朝倉神社の夏祭りでは、参道をまたぐ山門型の絵馬台が6台組み上げられ、拝殿に向かって整列する様子は壮観というほかありません。香美市土佐山田町の八王子宮には、5点の屏風を飾るための大型の「手長足長絵馬台」があり、近年では2019年7月24、25日の夏の大祭で披露されました。8月5日の高知市春野町芳原の愛宕神社の夏祭りでも絵馬台が組まれていましたが、2022年は見送りとなりました。本章では、これらの神社の絵馬台を展示室に再現し、さらに、高知の夏祭りを彩るもうひとつの風物である絵馬提灯を展示します。行燈絵とも呼ばれる絵馬提灯は、毎年新調されるものであったため、現存するものは非常に少なく、「釜淵双級巴(かまがふちふたつどもえ)」24点は、近年発見された作品です。

絵馬提灯、紙本彩色
創造広場 アクトランド蔵
※全会期展示
[第3章]絵金と周辺の絵師たち
本章では、屏風や絵巻、軸物以外の絵金の作品と、絵金と深い関わりのあった絵師の作品を紹介します。
御用絵師、町絵師のそれぞれの時期に、絵金に師事した弟子は数多く、高知市薊野(あぞうの)の山腹にある絵金夫妻の墓(友竹斎夫婦墓)の碑文には、「門人や業(わざ)を受けた者、数百人が其の筆法を世に行う」(原文は漢文)、とあります。河田小龍(かわだしょうりょう)は、当時の土佐きっての知識人で、米国から帰国したジョン万次郎から聞き書きした漂流記『漂巽紀畧』(ひょうそんきりゃく)を土佐藩主に献上したことで知られ、坂本龍馬とも交流がありました。野口左巌(のぐちさがん)は、現在の香南市野市町の紺屋で、本名が金蔵であったため「野市絵金」と呼ばれました。

紙本墨画 個人蔵
※全会期展示
土佐では男の子の初節句(生まれて初めての端午の節句)に、武者絵や芝居絵の描かれた横断幕のような幟を門前に飾る習慣がありました。その多くが紙製で、現存するものは非常に少ないです。「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」は、俳句とともに絵金の号「友竹」が書きつけられており、絵金の基準作となる貴重な作品です。
絵金とは
絵金は文化9年(1812)、高知城下・新市町(現・はりまや町)の髪結いの子として誕生したと伝えられています。
ちなみに、「絵金」は「絵師の金蔵さん」の略称・愛称であり、本人が名乗ったことはありません。幼いころから画才のあった少年時代の金蔵は、同じ町内の南画家・仁尾鱗江(におりんこう)に絵の手ほどきを受け、後に土佐藩御用絵師・池添楊斎(いけぞえようさい)に学びました。文政12年(1829)18歳のとき、土佐藩主・山内豊策(とよかず)の息女・徳姫の出府の際、駕籠かきの名目で供に加えられて江戸にのぼり、駿河台狩野派系の土佐藩御用絵師・前村洞和(まえむらとうわ)の下で3年間修業しました。帰郷後、土佐藩家老・桐間家の御用絵師となった金蔵は、藩医であった林姓を買い取り、林洞意(とうい)を名乗ります。当時としては町人からの大出世でした。ところが、33歳の頃、林姓と御用絵師の身分をはく奪され、城下を追放になります。贋作事件に巻き込まれたとの言い伝えもありますが、定かではありません。以降、町医者の弘瀬姓を買い取り、弘瀬柳栄(りゅうえい)となり、後には雀七と改めています。また、友竹、友竹斎、晩年には雀翁など、多数の画号を使用しました。金蔵や弟子筋の手によると思われる芝居絵屏風や絵馬提灯は多数残っていますが、中年以降、いつ頃どこで仕事をしていたのか、確かな史料が全く残っていません。謎の天才絵師とも言われる由縁です。赤岡(現・香南市赤岡町)の叔母の家に一時滞在していたと伝えられ、赤岡の北に位置する須留田八幡宮の神祭(じんさい)(祭礼)に奉納された芝居絵屏風が代表作となっています。墓碑銘によると金蔵から絵の手ほどきを受けた者は数百人いたといい、紺屋、絵馬屋、土佐凧の職人などに名前の知られた門人がいます。明治9年(1876)、65歳で亡くなりました。
音声ガイド

ナビゲーター:中村七之助さん
南国土佐の人々の心を揺さぶった絵金の芝居絵の見どころを、歌舞伎俳優、中村七之助さんの臨場感あふれるナビゲートでご案内します。
解説時間:約35分 ※展示替えに伴い、一部内容が変わります。
貸出料金:お一人様1台650 円(税込)
制作・お問合せ:(株)アコースティガイド・ジャパン
TEL:03-5771-4083(平日10:00~18:00)
support@acoustiguide.co.jp
関連イベント
リズミカルな話芸『講談師・玉田玉秀斎の講談絵金』

謎に包まれた幕末土佐の天才絵師、金蔵(絵金)の生涯を四代目・玉田玉秀斎がオリジナルで創作し、見てきたように講談で語ります。鑑賞と学芸員の解説を一緒に楽しめる贅沢なイベントです。
■日時:5月3日(水・祝)18:15~20:00
(17:00から入場可能、18:00以降は貸切)
■場所:あべのハルカス美術館展示室
■参加費:4000円
■定員:50人(定員になり次第募集は終了します)
■詳細とお申込みはこちら
https://www.ync.ne.jp/osaka/news/recommemd/post_30.php
50人限定!『学芸員の解説付き夜間特別貸切鑑賞会』

あべのハルカス美術館の藤村忠範上席学芸員が、高知県外では半世紀ぶりの大規模展、絵金展の見どころを解説します。解説前後は時間まで(閉館後は貸切)自由に鑑賞ができます。
■日時:5月20日(土)、27日(土)18:10~20:00
(17:00から入場可能)
[解説]18:10~19:00
[自由鑑賞時間]17:00~18:00、19:00~20:00
■場所:あべのハルカス美術館展示室
■詳細とお申し込みはこちら
https://www.ync.ne.jp/osaka/news/recommemd/post_30.php
開催スケジュール
日程
2023年4月22日(土)~6月18日(日)
【前期展示:4/22~5/21、後期展示:5/23~6/18】
火~金 10:00~20:00、月土日祝 10:00~18:00
(入館は閉館の30分前まで)
休館日: 4月24日(月)、5月8日(月)、5月22日(月)
会場
あべのハルカス美術館
料金(税込)
当日 | 前売・団体 | |
---|---|---|
一般 | 1,600円 | 1,400円 |
大高生 | 1,200円 | 1,000円 |
中小生 | 500円 | 300円 |
※未就学児は入場無料。 ※団体は15名以上。
※障がい者手帳をお持ちの方は、美術館チケットカウンターで購入されたご本人と付き添いの方1名まで当日料金の半額。
※前売券、ペアチケットは、4月21日(金)まで販売。
チケット発売日
12月10日(土)10:00~
プレイガイド
あべのハルカス美術館ミュージアムショップ(美術館開館日のみ)
あべのハルカス美術館ホームページ(オンラインチケット)
近鉄駅営業所
近畿日本ツーリストグループの店舗(一部店舗を除く)
チケットポート なんば
- 主催
- あべのハルカス美術館 / 読売新聞社 / 関西テレビ放送
- 協賛
- 清水建設 / 大和ハウス工業