2013年3月24日(日) 深夜1:25~2:20
スタートラインに立てなくて -黙殺される交通事故の被害者たち-

スタートラインに立てなくて -黙殺される交通事故の被害者たち-

企画意図

「むち打ち」程度の交通事故と聞けば、「軽く済んだ」と思う人もいるだろう。しかし、その事故で長年苦しむ人達がいる。手足の麻痺、排尿障害、記憶障害、さまざまな症状が出るという。
その多くは「頚椎ねんざ」「心因性」と診断されてきたが、最近になって脳の損傷によるものだと分かってきた。診断名は「軽度外傷性脳損傷」という。
この「軽い」とされる事故の被害が普通の診療機関で見落とされ、被害者をさらに苦しめている。一般的なCTやMRIなどには小さな脳の傷が写らないからなのだ。そのため客観的な証拠を必要とする労災保険や自賠責保険では後遺症が認定されず、多くの人が泣き寝入りしている。
近年になって医療界、法曹界、保険業界でも、こうした制度の狭間で苦しむ人がいることを認識し始めている。しかし詐病を恐れる余り、本当の被害も切り捨てられているのが現状だ。黙殺されている被害者の現状を伝えたい。

取材内容

ウェディングの仕事をしていた藤本久美子さん(38)。彼女は2008年に仕事中に上司の運転する車で交通事故に遭った。事故が起きたのは結婚式場の工事現場。整地されていない道を上司がスピードを出して運転、車の底面を強く打ちつけたのだ。エアバックが開きフロントガラスが割れたものの久美子さんには目立った怪我はなく、後日「むち打ち」と診断された。
しかし、症状は「むちうち」とは程遠いものだった。体の痛みがひどく、一日中家で横たわる生活。手や足には麻痺が出て、味も匂いもわからなくなった。働くどころか普通の生活すら出来ない状況なのだ。

しかし、医師からはその症状すら認めてもらえなかった。医師らが根拠にしたのは、MRI画像。彼女のMRI画像に異常が写らなかったため、「心因性」「気のせい」とされ、相手にしてもらえなかった。
その訴えが「気のせい」ではないと分かったのは、一年半以上たってから。東京で「軽度の外傷性脳損傷」だと診断されたのだ。最先端の画像診断では異常も判明した。

同じような状況に陥っている患者は少なくない。東京には「軽度外傷性脳損傷 友の会」があり、会員は100人にも上る。その多くが働けなくなったにもかかわらず、労災保険や自賠責保険で適切な後遺症認定がなされず、生活が困窮しているのだ。
この問題は2010年に国会でも取り上げられ、少しずつ注目されつつある。しかし、いま現在の患者は、現実的には医療・行政・司法すべてから見放れている状況にある。
車社会に生きる我々は、誰もが同じ状況に陥る恐れがある。決して現在の被害者だけの問題ではないと知って欲しい。

制作著作 関西テレビ放送