ザ・ドキュメント

2005年12月8日(木)

内容

ことし6月。ツバキの赤ちゃんはチンパンジーとしては世界ではじめて、生まれる前からその様子を3Dエコーで立体的に観察されることとなりました。目、口、鼻など顔の表情はもちろん、両手で顔を抱え込むようなしぐさや肺呼吸への準備ともいわれる口の開け閉めなど、ヒトの胎児と同様の動きが確認されています。この成果は今年7月初旬に岡山で開かれた日本霊長類学会で発表され、大きな評価を得ることになりました。

ツバキをはじめ5頭のチンパンジーが暮らす「林原類人猿研究センター」では、「ヒトらしさとは何か」をテーマに、チンパンジーの研究を通して研究員が行動や心理、知性など幅広い分野から進化の謎に迫ります。本来、野生では凶暴で利己主義なチンパンジーがどの程度の協力性を持つのか、また、コンピューターに映し出される画像の認識率や関心度合いを調べ、動物における福祉の環境がヒトとどの程度一致し、異なるのかなど、研究員がおのおの手作りの実験装置でチンパンジーの反応を分析します。チンパンジーを通して見えてくるヒトの強さや弱さ、欲の強さや愛情の深さ。研究員は彼らと朝食から寝付くまで1日の大半をともに過ごし、チンパンジーを知り、そして信頼の絆を密にしてきました。

ツバキの育児訓練がはじまりました。赤ちゃんに見立てた黒い人形を繰り返し抱かせようと試みます。飼育下のチンパンジーは初産の際、およそ半分の割合で出産直後に育児を拒否するからです。産み落としたまま一度も我が子を抱こうとしないもの、わが子に攻撃さえ加えるもの。限られた環境の中で出産や育児の様子を間近で見る経験がないからだといわれています。しかし、ただでさえ神経質なツバキはいつまでたっても恐る恐るつまみあげては捨ててしまう始末。育児をするチンパンジーのビデオも常時ツバキが見れる状態に設置したものの-。はじめての出産に向けて根気の要る作業が続きます。予定日が近づき、近くの神社へ安産祈願に出向きました。引いたおみくじには「安産。産後に気をつけるべし」徹夜でモニターでの監視が始まりました。

ところがみんなの期待に反し、ツバキは出産予定の240日目を過ぎても出産の気配を一向に見せません。これまでに飼育下のチンパンジーが自然分娩で無事出産した妊娠期間の最長記録は250日。これを超えると未知の領域、ツバキを帝王切開するかどうか、事態は深刻です。とはいえ、これまでにチンパンジーを帝王切開した例はほとんどありません。知り合いの獣医にあたるもなかなか執刀医が見つからず、切ったとしても手術の善し悪しや術後の経過に予測がつきにくい。かといってほっておいても母子ともに命の補償がありません。研究員の中で焦りと諦めが葛藤します。「ツバキの赤ちゃんが無事生まれますように」笹に下げられた短冊がむなしく揺れていました。七夕の日が暮れ始めていました。

その翌朝、ツバキの様子が急転します。陣痛です。研究員はツバキを別室に隔離し、出産準備を整えます。目の届くところにほかのメスを置き、前代未聞、将来のために出産を見学させておくというのです。さらに研究員がツバキと同室に入り、産婆を務めます。別室のモニターで見守る所長らセンター員一同。まさに全員参加での出産がはじまりました。陣痛から5時間、赤ちゃんの頭がでかかったそのとき、ツバキは思いがけない行動に出ます。わらを噛んで食いしばり、不破さんの長靴を腹に押し当て、ヒトの助けを借りて出産します。元気な女の子。心配をよそにツバキはすぐに赤ちゃんをたぐりよせて抱き上げました。わらのベッドを作ってやろうと必死です。新しい家族にどよめく研究員。ワインで祝杯をあげ、名付け親を競ってホワイトボードに名前が連なります。しかし-。

安心したのも束の間でした。ツバキは赤ちゃんを太ももとおなかに強く挟んだまま放そうとしません。抱き方がわからないのです。圧迫され、授乳もできない赤ちゃん。研究員が入れ替わり立ち替わりツバキを説得します。あの手この手で赤ちゃんを乳房に近づけようと寝ずの試みが続きます。赤ちゃんに触らせまいとするツバキ。命を救おうとする研究員。ツバキの帰りを外で待つチンパンジーの間にも微妙にバランスが崩れはじめます。この状態のまま、丸2日がたとうとしていました。そして-。

一難去ってまた一難。チンパンジーを知り尽くした研究員が、ヒトの知識と感覚ではどうにも解決できない野生のメカニズムを目の当たりにして葛藤し、奮闘を続けます。そこから見えてくる「ヒトらしさ」とは?

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